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ファッション豆知識

ネクタイ(4)

少し蒸し暑くなってきましたね。

ネクタイはもともと湿度の低いヨーロッパで発展したものですから、湿度の高いアジア圏では、男性のスーツ・スタイルは夏の衣服としては不向きな気がします。

そういったことから、夏期に環境省が中心となって行われる環境対策などを目的とした衣服の軽装化キャンペーン「クール・ビズ(COOL BIZ)」が約20年前に設けられました。
2012年以降は、東日本大震災時の電力逼迫などの影響もあり、「スーパー・クール・ビズ(SUPER COOL BIZ)」とさらに夏の軽装の普及を強化しています。
環境省も含めて基本的には5月1日~9月末までの期間に集中的に行いますが、実施期間は各自治体や企業に一任されています。最近は、地球温暖化などの影響で10月になっても暑い日があるので、その辺はフレキシブルな対応で快適に過ごしたいものですね。

クール・ビズの期間は、着る方だけでなく、見る方も快適な気分になります。 クール・ビズによって涼しい素材の開発も進みましたが、ネクタイをしていなくてもだらしなく見えないシャツなど、デザインの進化も促進され、地球に優しいファッションの発展につながっています。

さて、前回はイギリスにネクタイの前身であるクラヴァットが伝わり、スリーピース・スーツの一部として発展した経緯をお話ししましたが、引き続きその後のクラヴァット、ネクタイの発展をみていきましょう。

クラヴァットに続いて18世紀に登場した「ストック(Stock)/ストック・タイ(Stock tie)」は、乗馬や狩猟時に使用する飾りです。幅広の帯状の布を首にピッタリ巻いて、胸元や後ろで小さく結ぶか、ピンで留めて着用します。

このストック・タイを留めるピンは、最近はおしゃれなものもありますが、本来は安全ピンが使われます。それは、狩猟時に怪我をした場合、ストック・タイを簡易包帯として使い、安全ピンで包帯を止めていた時の名残なのだそう。

また、あらかじめ蝶結びなどの結び目が作られているものもあるようです。

ストック 【Stock】

衿飾りとして着用された幅の広い帯状のもので、やわらかいものもぴんとしたものもあって、ふつう後ろでバックルどめになっていた。クラバットに続いてあらわれたネックウェア(neckwear)の一種である。

ストック・タイ 【Stock tie】

(「ネクタイ【Necktie】の項)

ストックは、クラヴァットゥに続いてあらわれたネック・ウェアの一種で、キャンブリック、絹、革などでつくられた幅の広いネクタイである。首に巻き、端を前方で小さく結ぶか、あるいは後ろでバックル留めにする。ベルベットや絹でつくられたものは、婦人がカラーとして用いる。乗馬のさいに用いられることが多い。

ストックは男性だけでなく、婦人も着用したようです。
また、ウエストコートが礼服として発展したため「聖職服」の意味もあったように(「ベスト(2)」参照)、聖職者が着けるタイプのストックもありました。
19世紀以降は、首周りが糊(のり)付けされたり、厚手の紙や革で裏打ちして硬く固定されたものが、おもに軍服で用いられました。
現在では馬術競技者が白いストック・タイを着用することが多いそうです。

18世紀末から19世紀は、ファッションの、特に紳士服において、流行が作り出される舞台は、フランスからイギリスに移ります。
この時代のイギリスにおける紳士服発展の一番の貢献者は、ジョージ・ブライアン・ブランメル(George Bryan Brummell,1778-1840)でしょう。彼は「ボー・ブランメル(Beau Brummell)=伊達男ブランメル」の異名でも知られるように、この時代のファッショニスタでした。

ブランメルは貴族の出身ではないものの、後のジョージ4世(George IV, 1762-1830)となる皇太子とも友人で、口数は少ないけれども機知に富んだ伊達物として有名だったそうです。

彼は、それまでのブリーチズ(半ズボン)を黒のトラウザーズ(長ズボン)に替えるといった男性ファッションの変革を主導した人物ですが、衣服だけでなく頭から足の先まで、また振る舞いまでを「身なり」としてトータルで考えた人でもありました。
まず、かつらの着用をやめて、髪をローマ風(ブルータス風)に短くし、きちんとブラシを当て、また、白粉による化粧香水をつけることもやめ、常に入浴と髭剃りを欠かさず清潔さを保ちました。身に着ける物のサイズはピッタリにし、まめに洗濯がされ、コートからのぞくリネンは糊(のり)がきいてパリッとしていたそうです。

ブランメルは、毎日2時間かけてコーディネートを整えていたと言われています。 身体にフィットした上衣と長ズボンにドイツ風ブーツを合わせて乗馬風に、または仔鹿革の短ズボンには折り返しつきのブーツ、などとコーディネートにこだわりをみせます。しかも昼間と夜は装いを変え、日中はホイッグ党員風の黄褐色の上衣、夕方からは合わせボタンの青い上衣に白のウエストコート(ベスト)、細めの黒の長ズボンに、縞の絹靴下、シルクハット、アクセサリーは懐中時計の細い鎖のみ、などと、現代の礼服、紳士服のマナーにつながるようなコーディネートの基準を生み出しました。

そのブランメルがおおいに流行らせたと言われるアイテムに、細いひも状の「ネッククロス(Neck-Cloth)=あご布」があります。

このような細長いネッククロス(「Band」と呼ばれていたという記述もあります)は16世紀にはあったようですが、当時の上流階級の間ではあのラフ(「えり(3)」参照)が流行っており、中産階級はまだなかった時代でしたから、あまり存在感のないアイテムだったのでしょう。

彼が好んだネッククロスは、やわらかいモスリンのものではなく、糊(のり)づけした布地を用いた白く長いもので、大きめのをほどよい大きさに折り曲げ、下あごで少しずつ布を押さえつけてへこませながら、首の回りに高々と結びました。この結び方は、当時のおしゃれな男性たちが競って真似をしたようです。

フランスでも、18世紀末から19世紀初頭にかけては、高めのスタンド・カラー(ハイ・カラー)シャツに、クラヴァットをあごが埋まるくらいに巻き付けて、前中央で小さく結んだスタイルが流行ったそうです(「ネクタイ(2)」「えり(4)」参照)から、おそらくこのブランメルのスタイルがフランスに伝わって、少しフランス流にアレンジされて流行していたのかもしれませんね。

この細長いネッククロスの流行で、クラヴァットの流行は下火になったようです。

ブランメルのおしゃれの特徴は、シンプルと清潔感。決して派手ではなく、地味な中にも上品なセンスがあり、それが「紳士的だ」と憧れられ、その紳士的価値観とともに多くの男性が真似をしたとのことです。「街を歩いていて、人からあまりじろじろと見られたら、君の服装は凝りすぎているのだ」という彼の言葉からも、その価値観がよくわかりますね。

このような価値観は当時広まりつつあった「ダンディズム(dandyism)」と呼ばれるもので、当時は、中産階級の男たちが貴族のライフスタイルを真似ることも意味したようですから、そういった意味でも、ブランメルは模範的な「ダンディ(dandy)」でした。

ちなみに、「dandy」も「beau」も「伊達者」という意味ですが、現代ですと「派手なおしゃれ人」を意味する場合もあるようです。日本ではなんとなく「粋な大人の男性」を意味することが多い言葉ですが、イギリスではいくらか嘲笑の意味合いが込められているのだとか。英国紳士に「ダンディですね」と褒めるのは、やめておいた方が良さそうです。
言葉の意味は、「その時代のおしゃれとは何か?」ということや、使われる場所の時代背景なども考えて理解する必要がありそうですね。

このダンディズムの流行とともに、シンプルなダークスーツ・スタイルが主流となり、ネッククロスやクラヴァットなどのネクタイの前身となるネックウェアは、個性を発揮できるほぼ唯一のアイテムとしてさらに発展するのです。

次回も、ネクタイの発展の歴史を追っていきます。お楽しみに。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。