ファッション豆知識

香水

雨の日のおしゃれについては、前回レインコートについて書きましたが、この時期おしゃれをするにあたって、もうひとつ留意しなければならないことがあります。

そう、「ニオイ」です。

梅雨の期間は湿気が多く、気温も上昇してきます。
汗をかいてそのままにしておくと、嫌なニオイが気になりますよね。
実は汗自体は無臭なのですが、汗が皮膚の表面でアカや皮脂などと混じり合い、これを細菌が分解することでニオイ物質が発生し、臭くなるのです。

歴史上、体臭を隠すのに使われてきたものと言えば、香水(または香料)。
しかし、現代では香水でのごまかしは逆効果だとも言われ、体臭に関しては基本的には消臭対策が基本です。

では、なぜ人は香水をつけるのか?
それは、香水は大事なおしゃれアイテムだからです。

こうすい香水

からだ、衣服などに芳香を与えるためにつくられた製品で、各種の香料を調合して30〜2%の割合でアルコールに溶解したもの。香水の割合によって、香水(パルファン)15〜30%、オードパルファン8〜15%、オードトワレ5〜10%、オーデコロン2〜5%等の種類に分けられている。英語ではパフューム(perfume)、フランス語ではパルファン(parfum)という。

<中略>

香水は装身具と同様に考えられ、婦人にとってひじょうに重要なものとされている。色彩、形態、香りを選ぶことが、身だしなみの大きな要素である。男性も香水、オードトワレ、オーデコロンを使うようになった。香料はあらゆる化粧料にふくまれているので、よしあしで売れゆきを左右するものである。

香料をアルコールで溶解した香水は、アルコールが登場した10世紀頃だと言われていますが、香料自体の歴史はとても古いものです。
少なくとも、古代エジプトでミイラを作る際に、防腐や殺菌、保存の目的で香料が使用されていたことがわかっています。

香料は初め、このような薬用としての用途と宗教的な用途で使われました。
「香水」を意味する英語の「perfume」は、ラテン語の「per fumus(through smoke=煙を通して)」からきており、宗教的儀式の際に、寺院の祭壇で焚かれる香煙が立ちこめていたことがうかがわれます。

古代エジプトの墳墓やピラミッドからつぼにつめられた香料が多く発見されており、すでに紀元前2000〜3000年前より香料が使用されていたことが知られている。これらの香料はいまだに香りを保ち続けているといわれる。こうした香料は、一種の防腐剤として死体の処理に用いられたものであるが、それ以前から宗教的なものとして尊ばれ、インド、中国ではにおいのよい香木や樹脂に火をつけてたき、神仏に祈念することが行われてきた。西暦50年ごろのガロン・ローマン時代の婦人も香水を用いていたといわれる。
香料発祥の地は東洋で、中国、インド、エジプト、ギリシャ、ローマの順に広がっていった。

香水が登場するまでの香料はおもに固体で、香りのする植物や動物の分泌物などを、そのまま香炉などで焚いて使用していました。もともと薫香は宗教的な意味合いがありますが、今では宗教的な場だけでなく、香りを楽しむ方法として日常でもみられます。

薫香のような香りの楽しみ方として現在一般的なのは、アロマディフューザーでエッセンシャルオイルの香りを楽しむアロマテラピーです。アロマテラピーは自然療法のひとつで、香りによる医療的効果をもたらします。
良い香りに包まれると、心身ともに癒されますよね。

また日本では、平安時代に上流階級の嗜みとして、香りを楽しむ「薫物合せ(たきものあわせ)」が行われ、のちに「香道」として発展しました。

17世紀頃のヨーロッパでは、香料は体臭を隠すための消臭剤的な使われ方をしました。特にルイ王朝時代のフランスでは、あの美しいルーヴル宮殿やヴェルサイユ宮殿までも汚物に満ち、大変不衛生で悪臭がひどかったとのこと。また、着脱や洗濯の困難な下着やドレスなどの衣服事情も加わり、人々が悪臭に悩まされたことがうかがわれます。そのため香料も強いものが使われました。

このように、香料は宗教的、医療的、趣味的、衛生的、と様々な用途で必要とされましたが、めったに入手できない貴重品のため、なかなか一般化しませんでした。

そのころの香料はおもに固体で、桂(かつら)、丁字(ちょうじ)、白檀(びゃくだん)の天然植物、または麝香鹿(じゃこうじか)、海狸(かいり=ビーバー)などの分泌物からとった動物性のもので、これをこのまま香炉で焼き芳香をだす方法、つまり薫剤(くんざい)として用いた。そのほかには香粉、香膏(こうこう)として化粧などに用いられ、価も高く貴重品とされた。中世期にはスペイン、ポルトガル、オランダ人などが東洋へ旅をして中国、インドから香料を運んだ。

<中略>

また17世紀ごろのヨーロッパでは、飾りの多い下着を数多くつけることが流行したが、それを洗たくする方法がなかったため、常に下着は不潔で、その臭気を押えるために香水が発達し、香りもひじょうに強いものが用いられた。

今もむかしも香水が<液体の宝石>としての魅力をもっていることにかわりなく、日本でも仏教の伝来とともに、香料を用いるようになった。平安時代に香木を小さく切ってたき、衣服やからだに付香するのが上流婦人の流行となり、香合わせ、香道が上流人の作法の一つとなった。この香をかぎわけることを聞香(もんこう)という。

<中略>

香料はひじょうに高価で一部の階級においてのみ使用されていたが、6世紀から10世紀にかけて一般にも普及し、19世紀に人造香料が研究され、安く生産されるようになったので大衆的になった。

液体の香水が登場するのは、高度な科学が栄えたイスラム黄金時代の10世紀頃です。イスラム科学によって発明された「蒸留法」は、香水の歴史を作り出したと言っても過言ではないでしょう。

はじめは、香料の素材を蒸留したオイルを香水として使っていましたが、やがてその蒸留法からアルコールが産まれます。イブン・スィーナー(アウィケンナ=Avicenna)というイスラムを代表する知識人が、バラを蒸留してアルコールにした香水を、薬用として作り出しました。このアルコールベースの香水は、オイルの不快な香りがなく、何よりも清潔であったため、現代の香水のほとんどがこの製法を踏襲しています。

液体となって、香りはより多くの人々に使われるようになりました。
十字軍が、イスラム世界からヨーロッパに香水を伝え、ヨーロッパで蒸留技術はさらに進化し、ローズマリーやラベンダーなどのハーブから多くの香水が作られました。初めは薬酒として発明された「ハンガリーウォーター」などが、このヨーロッパにおけるアルコールベースの香水の起源と言われています。

アルコールベースの香水は香りが広がりやすく、つけ方によっては強く香ってしまうため、マナーあるつけ方をしたいものです。

昔からキツい香水の香りは疎まれてきましたが、最近では香水や香料の強い柔軟剤によって頭痛やアレルギーなどを引き起こす「香害(こうがい)」として、社会問題にもなっています。
感覚は人それぞれなので、なかなか調整が難しいところですが、自分でつけた香りが自分でずっとわかる程度だと、少し強いかもしれません。
服で隠れる部分などに少量をつけ、通りがかりにふわっと匂う程度が適量かと思います。

また、アルコールベースの香水は、その人の体温や体臭によって香りが変化します。つけてから10分くらい経った香りをトップノート、さらに20〜40分経過した香りをミドルノート、それ以降消えてしまうまでの香りがラストノートと呼ばれており、時間の経過での変化も楽しめます。つけてから約30分後がベストな香りの状態と言われているので、出かける30分くらい前にワンプッシュするのがいいかもしれませんね。

香水は直接衣服につけないで、スプレーを使って、髪や肌の一部に細かくつける。また香水瓶のせんで耳のうしろ、あごの下につける。ハンカチやガーゼに少量つけて肌着をしまうタンスに入れて、間接的ににおわせるのもよい。香水と化粧料の香りを同系統の香りに統一できれば理想的である。また昼と夜の衣装で香水を使いわければ、ぜいたくだが趣のあるものである。注意しなくてはならないのは、香料をどぎつくさせないこと。また香水は熱や光線、空気により分解、重合しやすいので、保存には、太陽の直射のところ、温度の高いところをさけねばならない。

今は薬用というより、立派なおしゃれ要素である香水。

ある大物女流作家が「シャネルを1点以上身につける」というドレスコードのパーティーに、Tシャツにジーンズ姿にシャネルNo.5をつけて出席した、なんてカッコいい逸話も耳にしたことがあります。

また、香りは五感の中で最も記憶と密接に結びついている、とも言われています。本能や感情を司る大脳辺縁系に直接つながっているのが、五感の中では嗅覚だけなのだそうです。香りを嗅ぐ事により、その時の記憶や感情が蘇る事を「プルースト効果」と呼びますが、そういう場面、案外私たちの日常の中にありますよね。

自分らしいステキな香りを上品に身につけて、人の記憶の中に美しく残りたいものです。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。