ファッション豆知識

マフラー 他(5)

豆知識 マフラー

もう4月ですね!
春分も過ぎたこれからは、どんどん日が長くなり、暖かい日が多くなります。今年は3月の寒の戻りもあり、桜の開花は昨年より遅いようですが、すでに陽光が春めいていて、春の到来を感じます。

これからの季節は、防寒用の厚手のマフラーに代わって、端境期のちょっと肌寒い時の調節アイテムとして、またはポイントのおしゃれアイテムとして、薄手のマフラーが活躍します。

そしていよいよこのマフラーのお話も最終回。
まだお話ししていないマフラーの豆知識を、ちょっとつめこんでお届けしたいと思います。

前回は、日本語の「えりまき」は、首に巻くマフラー類のみならず、ショールやストールといった肩かけも含むというお話をしましたが、英語で首元に着けるものの総称を「neckwear(ネックウェア)」と言います。
「新・田中千代服飾事典」の解説によると、「neckwear」には「えりまき」も含まれますが、英語では「首に着ける」という部分が日本語よりも厳密に定義されており、ショールやストールなどの肩かけの類は含まれません。

ネックウェア 【Neckwear】

ネクタイ、衿巻、カラー、ボア、ストックなど、首につけるものの総称。

「ストック(stock)」はあまり耳馴染みのないアイテムかと思いますが、「ストック・タイ(stock tie)」とも呼ばれ、「えり(4)」でお話しした現在のネクタイの前身である「cravate(クラヴァット)」の後継アイテムです。

ストック 【Stock】

衿飾りとして着用された幅の広い帯状のもので、やわらかいものもぴんとしたものもあって、ふつう後ろでバックルどめになっていた。クラバットに続いてあらわれたネックウェア(Neckwear)の一種である。

つまり、英語の「neckwear」はマフラー類というよりも、「えり」や「ネクタイ」に近いものを指すようです。

でも、マフラーとネクタイは同じルーツを持つ兄弟みたいなものです。

マフラーの起源については諸説ありますが、「首に巻くもの」とすると、エジプトやギリシャ、ローマ、中国など世界中の古代文明ですでに着用されており、その目的は、防寒というより権威を示す装飾的な意味合いが大きかったようです。また、軍事的な階級や分類を示す目的で使われたり、古代ローマの「focale(フォカーレ)」「sudarium(スダリウム)」などは汗取り布として首に巻かれていたそうです。

また、15世紀頃のヨーロッパにおいて、「muffler(マフラー)」と呼ばれる女性の顔の下部を覆う四角い白い布があったということがわかっています。「muffler」は、「覆う」「包み隠す」という意味の「muffle」という言葉からきている、というお話を「マフラー他(1)」でもしましたが、まさしくこの時代のマフラーは顔を隠すもので、現在のような首に巻く防寒具ではありませんでした。

17世紀に入ると、貴族たちの首元を装飾する「cravate(クラヴァット)」が登場します。先にも書きましたが、このクラヴァットが現在のネクタイの原型となりました。(「えり(4)」参照)

18世紀末フランス革命の時代になると、「muffler(マフラー)」と呼ばれていた布は、クラヴァットのように首に巻きつける現在のスタイルに近いものになりました。この頃から、動物の毛皮や毛糸が素材として使われ始め、防寒アイテムとして広まっていきます。

豆知識 マフラー

19世紀になると肩かけの「ショール(shawl)」が一般人にも普及し始め、特にレース製など装飾性の強いものが女性に好まれた一方、「ベスト(4)」でも登場したエドワード7世(Edward VII ,1841-1910)治世のイギリスでは、男性のスリーピース・スーツが普及しており、ウールやカシミア製の長いマフラーが防寒具として愛用されました。また、温暖な季節でも、シルク製のものが装飾用として愛用され、20世紀には、マフラーは男性のワードローブのマストアイテムとなっていきました。

1928年、アメリカの男性ファッション誌が、おしゃれなニューヨークの人200人が着用していたマフラーを調査したところ、ベスト・ドレッサーたちが着用していたのは、薄手の素材で先端に房飾りがついている白いマフラーだったそうです。シルク製はもちろん、ウール製のニットのマフラーでさえも、極細の毛糸で編まれていたようです。
この時代は、特に無地のカシミアのマフラーが人気でした。

その後、時代とともにや形状に流行はあるものの、マフラーは戦時の生産規制も乗り超えて、1950年代に入ると化学繊維など素材も広がり、その人気は根強いものとなっていきました。

当時流行していたカレッジ・ファッション(「カーディガン」「Tシャツ」「パーカー(2)」「トレーナー(3)」も参照ください)においても、カレッジ・カラーを使ったマフラーが登場し、60年代全般から70年代まで人気を博しました。そのマフラーは日本の「アイビー・ルック」にも引き継がれています。

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日本では、寛正二年(1461年)に本願寺で営まれた親鸞聖人の二百回忌法要で、あのとんちで有名な一休和尚が「襟巻きの あたたかそうな 黒坊主 こやつが法は 天下一なり」という歌を詠んでいます。この「黒坊主」とは親鸞聖人のことで、親鸞の黒漆で塗られた御木像が「襟巻き(えりまき)」をしていたことから、このように表現したのだと思われます。とすると、親鸞の時代にはすでに防寒具として「えりまき」が存在していたと思われますが、この「えりまき」がどういった素材、形状のものであるのは定かではありません。残されている親鸞の肖像画などを見る限り、大判の手拭いのようなものだったかもしれませんね。

江戸時代の日本では、防寒具としての「えりまき」は病人や年寄りが使うものだったようです。

西欧文化や物資が大量に入ってきた明治時代には、当然西洋のマフラーも日本に入ってきていたでしょう。当初はイギリスなどから輸入されたテリー織のタオルなどもマフラーとして使用されていたようです。

1873年(明治6年)のウィーン万国博覧会に絹製品を出品した椎野正兵衛商店の出品物記録に「諸種襟巻」という記載があり、また、1880年(明治13年)頃には、「大阪の井上コマが竹織によるタオルえりまきを製織した」という記録もあるので、この頃から国産のマフラーが作られ始めたのだと思います。
ただしこの頃は「えりまき」というと、前回お話ししたように、ショールなどの肩かけを指している場合も多かったようなので、文献を調べる場合は要注意です。

日本では、洋装が主流になるとともにマフラーも普及していきました。

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さて、硬い知識はこのくらいにして、せっかくおしゃれ意欲が増す季節になりましたから、最後におしゃれ実践の豆知識をご紹介したいと思います。

マフラーの巻き方には様ざまなものがありますが、みなさんはいつもどのように巻いていますか?その時々のコーディネートに合わせて巻き方も変えている、というおしゃれ上級者さんもいると思います。

もっとも簡単なのは、単に首の周りに1周させる巻き方ですが、1周巻いた後、前でひと結びすると「ニューヨーク巻き」になります。

写真の「ワンループ巻き」も簡単なので、子どもや男性にも人気の巻き方です。まず、マフラーの幅を半分に折り、次に、長さも半分にします。そのまま首にかけ、マフラーの端を反対側の端の輪の中へ通し、最後に形を整えて完成です。

1930年代頃、英国皇太子に着用されたことにより大都市で流行した「hacking scarf(ハッキング・スカーフ)」と呼ばれる乗馬スタイルのマフラーの巻き方がこのワンループ巻きだったようです。乗馬時に長いまま巻いていると、ほどけて事故につながりかねませんものね。「マフラー他(3)」でも書いた現代のネック・ウォーマーと同様です。

ちなみに20世紀を代表するアメリカのダンサーで「モダンダンスの祖」と言われるイサドラ・ダンカンは、首に巻いていた長いスカーフの端が、オープンカーの後輪の車軸にからまって首が締められ、最終的に車から落ちて首の骨を折るという悲しい事故で亡くなりました。長いマフラーをする際は、私たちも気をつけたいものです。

豆知識 マフラー

シンプルな巻き方も良いですが、もう少し巻き方に工夫をすると、ファッション性だけでなく保温性も高まります。
例えば、女性ファッション誌でよく見られる、首周りにクロスが重なる「ミラノ巻き(ピッティ巻き)」はしっかりと固定されるので、風が強い日などでもほどけませんし、何よりも温かいです。最近は大判のストールをミラノ巻きにしてボリューミーに着こなす人もよく見かけます。

その他「ポット巻き」「クロス結び」「ネクタイ巻き」など多くの巻き方がありますが、その巻き方はここで言葉だけで説明してもわかりにくいと思いますので、興味のある方はインターネットなどで調べてみてくださいね。

また、同じ巻き方でも、結び目(ノット)を前にするか後ろにするか、または横にするかでも印象が変わりますよ。

このようにマフラーの巻き方はいろいろあるので、いろいろ挑戦してみるとよいと思います。 また、顔の近くに巻かれるマフラー類は、身につける人の印象を大きく左右しますから、自分に似合うや柄を知っておくとよいかもしれません。

豆知識 マフラー

今では、世界中の人びとに年齢や性別を問わずに愛用されているマフラー。

マフラーがトレードマークになっているアニメや映画のキャラクターも多いですよね。古くは「仮面ライダー」や「サイボーグ009」、最近では「進撃の巨人」のヒロイン、ミカサの赤いマフラーもキーアイテムになっています。

海外ものでマフラーというと、やはり「ハリーポッター」を思い出します。
ハリーポッターのマフラーは寮別に分かれたデザインで、目印のような機能を持っていますが、また、それを身につけることでチームの一体感を出す役割も果たしています。

同じようなチームの一体感を作る役割があるマフラーといえば、サッカーのサポーターたちが身につける「サッカーマフラー」もありますね。サッカーマフラーはプロサッカーチームの応援グッズのひとつで、本来はサッカー観戦時に使用するものですが、カラーリングやデザインが秀逸なものが多いので、日常のコーディネートのアクセントとして、最近はファッションアイテムとしても注目されているのだそう。

これからの季節、サッカーに限らず屋外のスポーツ観戦がより楽しみやすい暖かな気候になっていきますが、少し肌寒い日やナイトゲームの際は、ぜひマフラーを持っていってくださいね。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。