ファッション豆知識

マフラー 他(4)

ファッション 豆知識 マフラー

まもなく春分ですね。
そろそろマフラーの季節はおしまいですが、マフラーのお話はまだもう少し続きます。

さて、日本の、特に年配の方がたは、マフラーのことを「えりまき」と呼ぶ人も多いと思います。
では、「マフラー=えりまき」なのでしょうか?
ちょっと「新・田中千代服飾事典」の解説を見てみましょう。

えりまき 【衿巻】

防寒、装飾、ちりよけなどの目的で、首に巻きつけるものの総称であるが、用い方も首に巻くだけとは限らないため、肩掛なども含んでいることが多い。衿巻は服装史上古くからあるもので、古代ギリシアのヒマティオンは衿巻きの一種と考えられるし、民俗衣装の中にも美しい衿巻が多くみられる。たとえばインドのサリーは衣服であると同時に衿巻をもかねていると考えられる。またポルトガルや、ユーゴなどの民俗衣装の中にも美しいストールがみられる。日本で衿巻が一般的になったのは明治以後で、毛糸編のいわゆるマフラーや、和服用肩掛のショールなどが普及した。衿巻のおもな種類としては、もと北欧で防寒用に用いられたといわれるスカーフ、毛や毛糸でつくられる長方形の防寒用マフラー、古くから東洋で防寒、防暑、防塵(じん)などの目的で用いられ、日本では和服用肩掛とされているショール、首に巻いたり、頭にかぶって用いる正方形のネッカチーフ、古代ローマのストラからきた長い肩掛のストール、毛皮などでつくられたボアなどがあげられる。

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事典の解説を見ると、「えりまき」はマフラーだけではなく、スカーフやネッカチーフやボアの他、ストールやショールなど肩まで覆うものも含む言葉のようです。
確かに、ストールやショールは一見「幅広のマフラー」という感じですから、マフラーの仲間と言えそうですね。

「ストール(stole)」は、羽織って使う肩かけのことで、マフラーのように首に巻いて使われることも多いと思いますが、本来は肩かけとして用いられていたため、マフラーより幅が広く、長さがあります。

ストール 【Stole】

毛皮、毛織物、絹、レース、毛糸などでつくられた細長い肩かけのことで、装飾あるいは防寒の目的で用いる。長さは一定でなく、両肩からたれ下がったはしが床にとどくほど長いストールもある。フランス語では、エトール(étole)といい、毛皮、羽毛の肩かけのことである。しかし布製のものもエトールとよぶことがある。ストールおよびエトールは、ラテン語のストラ(stola)からきている。ストラは、古代ローマ時代に婦人が着用していた、ゆるやかな衣装であった。ミサ聖祭などのとき、おもにカトリックの僧が首から前に下げている帯状のものをストールといい、中世期以来今日も、なお使用されている。ストラはクラビという細長い装飾がついたものもあるので、このクラビがストラを代表してストールに変化したものとおもわれる。

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ストールは幅や長さがある分、マフラーに比べて薄い生地が使用されるため、素材も綿や絹、カシミアやウールなど種類が豊富です。
特にカシミアのストールは人気の高いアイテムで、日本でも「パシュミナ(pashmina)」が女性の間で大流行しました。(「カシミア」参照)

通気性の良いものから暖かいものまであるので、季節に合った素材を選ぶことでオールシーズン使えます。冬だけでなく今のような季節の変わり目にも活躍しますし、夏の日焼け対策や冷房対策などにもちょうどいいアイテムです。携帯しやすいので、旅のお供としても重宝しますよ。

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ストールは、素材だけでなく柄も豊富なためファッション性が高く、アレンジもしやすいので、防寒目的だけでなく装飾目的でコーディネートのポイントとしても使われます。

素材と柄やアレンジ方法によって雰囲気を変えられるため、日常のカジュアルからスーツやドレスといったフォーマルな場など様ざまなシチュエーションで着用できます。

ストールは、基本的には男女兼用なのですが、最近はもっぱら女性が着用するアイテムとして認識されているかもしれません。

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今は様ざまな素材で作られるストールですが、昔は毛皮で作られていたので、英語で「stole」というとおもに毛皮製のものを意味します。(「Fur stole」とも表記されます)フランス語では「étole(エトール)」と呼ばれていますが、こちらもおもに毛皮や羽毛製の肩かけを指します。

「stole」も「étole」も、古代ローマ時代に婦人が着用していたゆるやかな衣服を意味するラテン語の「stola(ストラ)」からきている言葉ですが、このストラに「clavi(クラヴィ)」と呼ばれる細長い帯のような装飾が付いており、実はこのクラヴィが何世紀も経て、中世には「stole」と呼ばれるようになっていたようです。

この帯状の装飾は、カトリック教会の聖職者が中世期以降、ミサなどの時に着用しているもので、欧米では「stole」というと、こちらを意味する場合も多いです。
ちなみに、欧米の大学生が卒業式などに着用する「アカデミック・ストール(academic stole)」は、海外ドラマや映画などで見たことがあるのではないでしょうか。

ですので、私たち日本人が「ストール」と認識しているものは、英語では「shawl(ショール)」と表記されていることが多いかもしれません。

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「ストール(stole)」と「ショール(shawl)」、この2つも混同しやすいですよね。

ショールは、もともとインドのカシミール地方の男性の伝統衣装が名前の由来ですが、現在は女性用の肩かけを指します。

語源のペルシア語の「شال,(Shāl)」が「1枚の大きな布」を意味するように、ストールよりも大判の四角形(正方形が多い)の布で、通常は四角形の布を三角形に折って使いますが、最初から三角形のものもあります。

肩にかけるだけでなく、頭からかぶったりして着用しますが、ストールとは異なり、ショールは首に巻いて使うことはありません。

日本人にとっては、女性の和装時の毛皮の防寒アイテムも「ショール」と呼んでいますが、欧米だとこれは「shawl」というよりも、先述の「fur stole(ファー・ストール)」に当たるかと思います。

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現代のファッション用語では、この「stole(ストール)」と「shawl(ショール)」を、「(身体を)包むもの」という意味の総称として「wrap(ラップ)」と呼ぶのだそう。

時折、「scarf(マフラー)」を「wrap(ラップ)」と呼ぶ人もいるようですが、マフラーは身体を包むものではないので、これは間違いです。
ただし、下記のようにwrapを動詞で使う場合は、複数の防寒アイテムのひとつとしてマフラーも含んだ意味でよく使われるそう。

You need to wrap up warm today.
今日は(寒いから)マフラーなど防寒アイテムをして暖かくしてね

先の「stole」と同様、ファッション用語には、使っているうちに意味するものが変わっていくものが多く、そんな言葉の変遷を知るのも面白いな、と思います。

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えりまき」がマフラーだけでなく、ストールやショールのような肩かけも含む言葉だということから、今回はストールとショールをご紹介しましたが、いかがでしたか?

次回はいよいよマフラーのお話も最終回。
マフラーの歴史や巻き方など、盛りだくさんでお届けしたいと思います。お楽しみに!

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。