日本画の表現の
根底に流れるもの。
古来日本人は自然を神として崇めてきました。それは山や滝、大きな岩や木、路傍の小さな石にさえ手を合わせてきた様子からもうかがえるでしょう。
人の生活に恵みを与え、時として災いをもたらす自然に対する感謝や畏れが、日本人の宗教観や自然観、美意識に大きな影響を与えてきました。雄大な景色から野草の風にそよぐ姿、川のせせらぎの小さな音など、私たちの自然に対する感受性は幅広く強いと言えるでしょう。それらから成る美意識は日本画の表現の根底に流れています。
日本画コースでは始めに基礎と考える写生(デッサン)を学びます。まず植物の写生から始め、その観察、構造の把握、描写を通して造形の源となる自然の摂理を学びます。そして自然な形、より良い形を探して描く力を向上させます。
次に風景や人物を描き自然の秩序の不変さを認識するとともにそれらが持つ生命感や強さを表現する造形感覚を養います。自然の形は素晴らしいものです。自分でオリジナルな形を作ろうとしても画一的になり、どうしても自分の癖が出てしまいます。植物の茎一つだけを見ても、その動きや太さなどどれ一つをとっても変化に富んだ美しさを備えています。自然の造形から学び、それを自分の形、表現へと発展させていきましょう。
日本画独自の表現を学ぶワークショップを定期的に行います。揉み紙や絵具の盛り上げ(ほり塗り)、絵具を流したり、垂らし込んだりといった紙や絵具の表現の幅を広げます。また平らに塗る、ぼかすなどの一見簡単そうで難しいテクニックや、箔を使ったさまざまな表現を一つずつ学習していきます。技術のバリエーションを増やしていく中で、自分に合ったものを見つけ、それが自分らしい表現につながることを願っています。
(平らに塗る、ぼかし、盛り上げ、絵具流し、垂らし込み、箔研ぎ出し、揉み紙、箔揉み紙、箔焼き、砂子、裏彩色、絵を洗う)
動物は日本画の重要なモチーフとして描かれてきました。ひとくくりに動物といってもその対象は幅広く、犬や猫などの身近な存在から龍などの想像上の生き物にまで及びます。
前年度には実際に動物園へ足を運び、動物を目の前に写生をして、それをもとに本画制作を行いました。日本画のテーマの一つである「花鳥画」の中から発展した「動物」という題材は生命力を放ち、その力強さ、儚さ、愛らしさは描き手を惹きつけてやみません。
古典の模写をする事で先人の筆使いや感性を体感します。美術表現科では墨で描かれた作品の模写をします。造形表現科では彩色のある作品の模写から古典的な絵具の使い方を学習します。
これらは日本画を理解する上で重要な経験になるでしょう。
授業の最初に各自がモデルになり、10分ポーズのクロッキーを行います。
一番身近で様々な表情をみせる人物を題材にすることは、絵を描く力を向上させるのに最も適していると言えるでしょう。人物にはあらゆる絵の基本が詰まっています。毎日の積み重ねで知らず知らずのうちに描く力・観る力が身についていきます。
校外にでて写生を行います。2020年度は新宿御苑内に行きました。写生したものを基に、学校に戻ってから本画の制作をしていきます。
現場で感じる空気感や光、大きな空間など形以外の要素を取りいれ、各自の個性や感性に活かしていきます。
岩絵具/水干/顔彩/紙本/絹本/箔
など
1人1つの制作中に使用できる画材置き。
100号以上の大作の制作も可能。ロッカ
ー完備、作品保管スペース有。
モチーフの構造を考えながら、丹念に写生をします。そしてそれをもとに、形、構図といった絵を描くための大切な要素をトレーニングしながら制作していきます。
また絵具の粒子の違いという個性を持つ岩絵具の独特の使用法、線(運筆)、ぼかし、等の日本画の筆や用具の基本的な使用方法も学び、古典模写なども通して日本画の伝統的な考え方、技術を学びます。
課題ごとの写生は美術表現科と同様に行いますが、本画制作においてはモチーフから展開したイメージの作品を制作したり、自由な作品を制作したりします。
技法的にはワークショップで学習した絵具の使い方のバリエーション(厚塗り、削る、洗う、重ね方、等)を広げるアプローチをしたり、基底材である紙や絹についても学びながら(多くの種類があり使用法も多くあります)制作していきます。
画面サイズも美術表現科より大きいサイズに挑戦し実力をアップしていきます。
日本画の画材の表現方法を研究し、より自由で自分らしい個性的な表現を目指して制作します。表現研究科ではクラス全体としてのカリキュラムは行わず、個人個人の目標に合わせたカリキュラムで制作していきます。
学習が進むにつれ自分がやりたい表現がはっきりしてくると思います。そのために必要な技術の習得、習熟を手助けします。
また大作への挑戦(画面が大きくなると全てのことが小さな画面の制作と異なってきます)や公募展への出品、個展の開催などの目標に合わせた手助け、指導を行います。
下記は一例となります。
入学してみて感じたこと
日本画に限らず、絵画全般における取り組みが良かったし大変でもあった。
美術全体への視点の位置を考えさせられた。また、共通授業では自分の視野の拡大に役だった。もし絵を勉強したいとお考えなら、他コースも含め学習する意義は充分にあると思います。
造形表現科/安齋敬一郎さん