ファッション豆知識

ベスト(1) 

前回まで2回にわたってご紹介した「ボディス」は、おもに女性のドレスの上部の袖無しのピッタリした胴衣でしたが、今回は、そのボディスと似ている袖無しの胴衣の「ベスト(vest)」のお話です。

女性のドレスの上部のボディスに対して、ベストは男性のスリーピース・スーツ(三つ揃い)のイメージがありますが、最近は女性のファッションでもベストが活躍しており、ボディスよりベストの方が日常的に着用されているので、おなじみですね。
ちょうど寒くなってきた今頃、「厚手のセーターはまだ少し早いな」という時にベストを1枚重ねると、断然身体が温まりますし、お腹周りが温まると健康に良いだけでなく血流も良くなるので、顔色も明るくなります。また、腕周りもモコモコしないですし、丈や色によってはお腹周りもスッキリ見せてくれるので、スタイルアップにもつながり、クローゼットに1枚あると大変重宝するアイテムです。

日本語では一般的に「ベスト」と表記されますが、英語の綴(つづ)りは「best」ではなく「vest」なので、「ヴェスト」と表記している場合もあります。

また、日本では年配の方でベストのことを「チョッキ」と言う人もいますが、これは明治時代に定着した和製の言葉で、ポルトガル語の「jaqueta」やオランダ語の「jak」がなまったもの、あるいは、ジャケットの下のシャツの上に直接着る「直着」から、など由来については諸説あります。
ちなみに、お隣の韓国でも「조끼(チョッキ)」と呼ばれているそうですよ。

ベスト 【Vest】

<チョッキ><胴着>などの意味。通常シャツの上、上衣の下に中衣として着るもので、袖がなく、からだにそった形で、ウエスト丈あるいは後ろがウエスト丈で前がウエストよりやや長めの丈の衣服をさす。男子の三つ揃い背広にみられるチョッキ、およびこれをまねた女子用のチョッキなどがこれにあたる。チョッキの語はジャケットのなまったもの、あるいは直着からきた語といわれ、日本の呼称である。また男子のチョッキにみせかけて、ブラウスやジャケットの前身頃につけた飾りのこともベストという。

もともとベストは、男性の正装や礼服、またはラウンジ・スーツなどを着用する際の、ジャケットとパンツに加えて着用される第3のアイテムで、通常シャツの上、上衣の下の中衣として着るものです。
基本的には前合わせの袖無しで、体に沿った形をしており、ウエスト丈あるいは後ろがウエスト丈で前がウエストよりやや長めの丈の衣服を指します。

現在は女性ものや、中衣に限らず上衣として使えるものも含めて「ベスト」と呼んでいます。
女性服で中衣でないベストというと、日本人の私は、銀行受付担当の女性行員の制服が思い浮かびますが、学生服として着る防寒用の袖無しニットも、前合わせじゃなくても、丈が前後同じでも、私たちは「ベスト」と呼んでいますね。

また、上着を着た時にベストのように見えるように、ジャケットやブラウスなどの前身頃に施した飾り自体も「ベスト」と呼ぶ場合があるそうです。(女性の場合は「ボディス」とも呼ばれます)。

しかし、私たちは「ベスト(vest)」という言葉に関しては、注意しなければならないことがあります。

私たちが認識している袖無しの胴衣を「ベスト(vest)」と呼んでいるのは、実はアメリカやカナダ、そして日本などで、ベストの発祥地であるヨーロッパではその呼び方は異なります。

特に、アメリカと同じ英語圏のイギリスでは「vest」は、なんとアメリカ英語で言う「undershirt(肌着)」、「tank top(タンクトップ)」を意味することが多いのだそう。気をつけないと、イギリスでベストを買おうとしたら、肌着が出てきてしまうなんてことになってしまいますね!

インドなど、旧イギリス連邦国から成るコモンウェルス(・オブ・ネイションズ)の国でも、イギリスと同様「vest」は肌着を意味するところも多いようですが、最近オーストラリアなどは、アメリカのように「ベスト」を「vest」と呼んでいるようですので、少しずつアメリカ式が拡大しているのかもしれません。

では、私たちが「ベスト」と呼んでいるアイテムは、イギリスでは何と呼んでいるのでしょう?

その答えは、次回お知らせしたいと思います!

身近なアイテムであるベストですが、その呼び名に関してだけでも、まだまだ知らなかった事実がたくさんありますし、長い歴史もあります。
できるだけ豆知識が増えるよう、このベストのお話も、数回に分けてお届けしたいと思います。お楽しみに!

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。