今年は11月に入っても各地で異例の残暑日が続き、なかなかベスト(vest)が活躍できないでいましたが、ようやく気温も例年並みに下がり、ベストのオシャレを楽しめそうになってきましたね。
さて前回、英語の「vest」という言葉は、イギリスではアメリカ英語でいう「undershirt(肌着)」、「tank top(タンクトップ)」を意味するのだというお話をしました。 では、イギリスでは私たちが「ベスト」と呼んでいるアイテムは、何と呼んでいるのでしょう?
ベスト 【Vest】
イギリスではおもにウエスト・コート(waist coat)の語があてられており、ベストは肌着やシャツなどをさす語としても用いられる。その他<僧服><聖職服>などの意味もある。
ウエストコートは前身頃が縦に開いていて、基本的にはボタンかスナップで留めて着用し、身体にぴったりフィットしているのが美しいとされています。
ウエストコート 【Waistcoat]】
チョッキ、ベストのことである。両前、片前、あるいは衿つき、衿なしなどの別があり、スーツと共生地でつくられる場合と、かわりチョッキ地でつくられる場合とがある。
5、6個のボタンが前に1列に付いた襟無しのシングル(シングルブレスト)が基本形ですが、ボタンの並びが2列のダブル(ダブルブレスト)や襟付きのものもあります。
一見、ダブルや襟付きのものの方がよりクラシカルな雰囲気が出るため、格式高く見えますが、フォーマル度はシングルもダブルも襟付きでも襟無しでも関係ありません。
「シングルのジャケットにシングルのウエストコート」というコーディネートが主流ですが、「シングルのジャケットにダブルのウエストコート」や「ダブルのジャケットにシングルのウエストコート」、「ダブルのジャケットにダブルのウエストコート」を合わせることもできます。ただし、ダブルのジャケットの場合は、シングル・ダブル問わずにウエストコートを見せない、もしくはウエストコートを着用しない方がバランスが良いとされています。
襟付きのウエストコートの襟は、ビジネス用のジャケットと同様、「ノッチト・ラペル・カラー(ノッチ・ラペル)」という下襟(ラペル)の先が下向きの襟が一般的です。
また、上襟と下襟の切り替えがなく、細長いへちまのような形の「タキシード・カラー」のものもあります。
中には、デザインで上下逆に付いていたりするものもあるそうです。
そして、その襟にジャケットと同じように、「フラワーホール」も付けることができるのだとか。 「ノッチト・ラペル・カラー(ノッチ・ラペル)」や「タキシード・カラー」については「えり<襟・衿・領>(7)」、「フラワーホール」については、「えり<襟・衿・領>(8)」にも詳しく書いていますので、ぜひご参照くださいね。
ウエストコートはスーツと同じ生地で作られる場合もあれば、ウエストコートだけ別の生地で作られることもあります。
ジャケットとセットになっていない単独のウエストコートは「オッド・ウエストコート(odd waistcoat)」と呼ばれています。「odd」は、「半端の」「片方の」といった意味があります。アメリカ式ですと「オッド・ベスト(odd vest)」ですが、今はこちらの呼称の方がよく使われています。
チェックやストライプなど柄もののスーツに、ウエストコート(ベスト)だけ無地にしたり、反対にウエストコート(ベスト)をチェックやストライプなど柄ものにして、アクセントをプラスさせたコーディネートも好まれています。
ウエストコート(ベスト)は合わせるジャケットによって、また、その色や柄の有無、襟の有無やブレスト(シングル・ダブル)やボタンの数、Vゾーンの深さによって雰囲気が変わるので、ウエストコート(ベスト)が一枚加わるだけで、スーツのコーディネートの楽しさはぐーんと拡がります。
ウエストコートは、ポケットもジャケットと同じように左側、または左右両方に付けることができます。昔は内側のポケットも付いていたようですが、現在はあまり見かけられません。
腕時計が普及する前は、紳士は懐中時計をウエストコートの前ポケットに入れ、落とさないようにボタンホールに時計チェーンを通して持ち歩いていました。ポケットと一直線上に、時計チェーン用専用の穴があるものもあります。さらに、チェーンの端にはバーが付いており、落としたり引っ張られたりした時に、チェーンをキャッチできるようになっていたのだそう。
そういえば、「不思議の国のアリス(Alice’s Adventures in Wonderland)」に登場する白ウサギの懐中時計のチェーンは、しっかり白ウサギのベストにくっついていましたっけ。
最近は懐中時計を使う人はほとんどいないと思いますが、ポケットから伸びるチェーンがアクセサリーのようにウエストコートを華やかにしてくれるので、懐中時計を鍵などに替えて、ウエストコートのエレガントなオシャレを楽しむのもよいかもしれませんね。
次回は、ウエストコートを着用する際のマナーなど、イギリス紳士のオシャレの嗜みについて少しお話したいと思います。お楽しみに。