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渋谷ファッション&アート専門学校

服飾専門課程
(ファッション)

Hemp/Linen/Ramie

ファッション豆知識COLUMN

そろそろ鬱陶しい梅雨も明ける頃。
照りつける陽射しは、すっかり夏仕様。気温もぐんぐん上がってきます。

暑い夏はできるだけ軽装でいたいものですね。ついTシャツやワンピースなど、ラフな服装になりがちですが、少しきちんとした印象を持たせたい時もあります。そんな時に活躍するのが麻素材のアイテムです。

ここ数年、綿や麻などの天然素材が人気ですが、特に麻素材のものは色やデザインのバリエーションも増え、価格もリーズナブルになったおかげで、最近購入した人も多いのではないでしょうか?

1枚持っていると便利なのは、襟付きの長袖シャツです。
長袖は陽射しの強い屋外では日焼け対策にもなりますし、冷房の効いた屋内では身体の冷えを防いでくれます。ちなみに、二の腕に自信のない筆者にとっても、涼感のある麻の長袖アイテムは助かる1枚。ぴしっとプレスされていない自然なシワ加減でも、襟付きだと程よいきちんと感を出すことができて重宝します。

普通「麻素材」というと、一般的には「リネン(Linen)」を思い浮かべる人が多いでしょう。ちょっと詳しい人だと、光沢のある「ラミー(Ramie)」もご存知かもしれません。現在日本の繊維製品で「麻」と表示できるのは、この2種類の繊維です。
「リネン」は「亜麻(あま)」という外来種の植物からとれる繊維で、「ラミー」は「苧麻(ちょま)」または「からむし」と呼ばれる植物からとれる繊維です。

でも元々「麻」と呼ばれ人との歴史が古いのは、「大麻(たいま)」または「アサ」とよばれる植物の繊維「ヘンプ(Hemp)」です。
「大麻」は耳にするように、「麻薬」の一種です。その花冠、葉を乾燥または樹脂化、液体化させたものは「マリファナ」とも呼ばれ、その成分は薬理作用があり、一部は医療用に容認されているものの、日本ではまだ非合法の規制薬物です。

しかしその繊維は丈夫で保湿性も高いので、衣料のみならず、実に様々な用途で活用されてきました。

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あさ【麻】

狭義には主としてクワ科の大麻(たいま)繊維をさすが、広義には大麻類似の繊維植物からとった長繊維をさす。発生地は中部、南部ロシアといわれ、紀元前より中欧、西欧で広く栽培されていた。その種類は植物学的に分類すると60種あまりあるといわれるが、衣料用としての代表的なものは、亜麻(あま)、苧麻(ちょま)、大麻などが、また綱策、袋用として黄麻(おうま)、マニラ麻、サイザル麻などがあげられる。

麻類の繊維は、多数の繊維細胞が連結結合して長い束になっているので、これを衣服や高級織物、あるいは細糸にする場合は、できるだけ細かくわけて繊細な繊維にして用いる。

その特質は、①綿に比べて繊維が長いのでより合わせが容易で、引っぱり力が強い。②摩擦抵抗力が強い。③繊維素以外にペクチン質、ゴム質などをふくみ、細胞膜も多少木化しているため柔軟性が少ない。④水中における引っぱり力が強く、水分の吸収発散が速く、比重も大きい。⑤熱の良導体で体温を奪って冷感をともなうので、夏生地に向くなどがあげられる。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

アサ(大麻)は、人類が栽培してきた最も古い植物のひとつだと言われています。その歴史は約1万2千年以上前からだとのこと。日本でも縄文時代の貝塚からアサの実(種子)が見つかっており、食用されていたことがわかっています。また、弥生時代の布はそのほとんどがアサの繊維から作られていました。

アサは食用、衣料用という日常に有用な植物でしたが、日本の神道では麻は神聖な植物として扱われ、しめ縄や神具の様々な用途で使われました。祓い具の「おおぬさ」は「大麻」という字が当てられています。また、天皇即位の大嘗祭の麁服(あらたえ)、伊勢神宮の神衣祭(かんみそのまつり)の荒妙(あらたえ)なども麻布で作られています。

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麻繊維を利用した麻織物の歴史も古く、新石器時代にはすでにつくられ、エジプトのミイラの包衣や、日本でも静岡の登呂(とろ)遺跡にみられる。とくに中世に麻業がおこり、発達し、信濃越布(しなのえっぷ)や、後世の越後縮(えちごちぢみ)、薩摩上布(さつまじょうふ)などが有名である。

ヨーロッパでも中世に羊毛とともに広く利用されたが、18世紀において綿紡績機械の発明により綿工業が発達し、麻工業はその地位をとってかわられたが、麻の強さと清涼感から今日なお重要視され、近年は防皺(ぼうしゅう)のためポリエステルなどとの混紡、交織(こうしょく)製品がふえ、高級麻織物がつくられている。

もとは洋服の下着材料として麻はなくてはならないものであったが、木綿が使われるようになり、しだいに用いられなくなった。現在はシャツ、婦人服地、ハンカチーフ、ナプキン、テーブルクロスなどの材料として用いられているほか、蚊帳(かや)、芯地、帆布(ズック)などの材料とされている。和服地用として、越後上布(えちごじょうふ)、薩摩上布(さつまじょうふ)、小千谷縮(おじやちぢみ)、能登上布(のとじょうふ)、八重山上布(やえやまじょうふ)などの高級品がある。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

「麻」はこのように元々はアサ(大麻)をさしましたが、今はその他の類似植物からとれる繊維の総称としても使われる言葉です。
その広義でいえば、日本で「麻」として流通している「リネン」と「ラミー」以外にも、多くの種類の麻素材があります。

例えばコーヒー豆を入れる麻袋は、「ジュート(黄麻)」からできています。「ケナフ(洋麻)」は、木材に変わるエコロジーな紙素材として活用されており、コーヒーフィルターや紙ナプキンで最近よく見かけます。これらは茎や幹からとる「靭皮(じんぴ)繊維」といわれています。
「マニラ麻」や「サイザル麻」はその強さから、船舶用ロープとして使われています。マニラ麻は日本の紙幣にも使われているそう。これらは葉脈からとる「葉脈繊維」といわれています。
その他フルーツからとれる繊維もあります。ココナッツの果皮からとれる「コイヤー」、パイナップルからとれる「パイナップル麻」なんていう麻もあるのだそう。
それぞれ特性があり、その特性を活かした活用がされているのです。

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「麻」は通気性が良く、天然素材の中でもっとも涼感のある素材といわれています。また吸水性も高いので、夏のファッションには欠かせない素材です。
シャツやスキッパー、ワンピース、パンツと、様々なアイテムが人気ですが、ストールなども麻にすると、見た目も涼し気ですね。

日本の衣料で「麻」表示されている「リネン」と「ラミー」は、それぞれ特性があり、それが素材の魅力となっています。
「リネン」の繊維は細く短いので、しなやかな感触で肌触りが良いのが特徴です。色はリネン特有の黄味がある色で、よく女性の髪の色でいわれる「亜麻色」とはこの色のことです。
「ラミー」の繊維は太く長く、コシがあります。シャリ感は天然繊維の中でも一番といわれ、絹のような光沢のある白色です。繊維が硬いので肌触りは少しチクチクするかもしれませんが、白度、光沢、涼感はリネンよりも勝り、よりきちんと感が出ます。

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麻素材は一見お手入れが難しそうにみえるので、洗濯はクリーニング店に出すイメージですが、家の洗濯機で洗えます。麻は水に濡れると強度を増すため、洗濯には強い素材なのです。(繊細な縫製のものや装飾つきのもの、リネン以外の素材を一緒に使ったものだと洗濯機で洗えない場合もあります。洗濯表示を確認してください)
ただ、摩擦に弱く、水に濡れると毛羽立ちやすくなるので、洗濯ネットに入れて洗うのが良いでしょう。縮みやすいので高温のお湯は使わず、水かぬるま湯で洗いましょう。濃い色に染色されているものは、はじめ色落ちしやすいので、単品で洗うのをおススメします。アルカリ性の洗剤は色落ちしやすいので、中性洗剤を使うのが良いです。

麻素材はシワになりやすいので、干し方に注意が必要です。
脱水せずにタオルドライか、脱水をしても短時間に。できれば、水がポタポタ滴るくらい濡れたまま干すと、水分の重みでシワが伸びます。麻は乾きやすいので、そんなに時間もかかりません。
また、太陽の光に弱いので、色褪せや日に焼けて色が変化してしまわないよう日陰干しにしましょう。

完全に乾いてしまうと、アイロンでもシワが取れにくくなります。シワを取るなら、乾ききる前にアイロンをするか、スチームなどを当てながらアイロンをするのがコツです。
ただ、麻のナチュラルなシワ感やシャリ感も、この素材の良さでもあります。筆者はどちらかというと、あまりきちんとプレスされたものより、ふんわり風合いのある仕上がりの方が好きなので、アイロンはしません。シワが気になるところだけスチームを当てて、シワを取るくらいです。

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余談になりますが、ホテルに行くと寝具を「リネン」と呼び、その収納部屋を「リネン室」と呼びます。しかし寝具の素材は綿だったりして、なぜだろう?と思っている人は案外いるのではないでしょうか。
丈夫で速乾性、吸水性の良いリネンは昔、西欧の高級な宿泊場で寝具として好まれて使われました。その名残で、今でもホテルなどの寝具をリネンと呼ぶのです。

また、中世ヨーロッパではリネンは女性の高級下着として愛用されており、フランス語で「リネン」を意味する「Lin(ラン)」から、女性用の下着や部屋着類を「ランジェリー(lingerie)」と呼ぶようになったそう。

とにかくずっと昔から、私たちの肌に近いところでリネンが活躍していたのですね。

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着心地の良さは、着ている人の表情に表れます。
天然素材の快適な麻を身につけると、自然と明るく優しい笑顔になりそう。
その素敵な笑顔こそ、夏の太陽の下で輝く最高のファッションアイテムかもしれませんね。

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文/佐藤 かやの(フリーライター)