ファッション豆知識

レース(13)

さて、前回まで連続式のストレート・レースをご紹介してきましたが、その代表格といえば「トーション・レース(Torchon lace)」でしょう。
最も古いレースのひとつで、「ベガーズ・レース(Beggar’s lace)」「ペザント・レース(Peasant lace)」「バヴェーリアン・レース(Bavarian lace)」とも呼ばれます。私たちにとっては、割と馴染みのあるレースかもしれません。

「Torchon」は町の名前ではなく、フランス語で「布巾(ふきん)」とか「雑巾(ぞうきん)の意味の言葉です。
そんな名前が付いたのは、このレースが太い糸や木綿糸で編まれた耐久性のあるレースだからでしょう。これまでご紹介してきた繊細なボビン・レースとは異なり、目の荒い網目地に幾何学模様や直線的なラインといったシンプルな模様が描かれています。
シンプルなデザインであるため、使用するボビンの数も多くなく、他のレースより太い糸を使用するので「初心者向け」と言われており、レース職人が最初に習うレースだったようです。

トーション・レースは、幅2.5~5cmの細長いテープ状のレースで、ハンカチーフやテーブルクロス、下着の縁取りやインサーション(布と布の間に刺繍やレースを挿し込む手法)に使われることが多いですが、つなぎ合わせてブラウスやストールなども作られたようです。
また、トーション・レースには一般的には白い糸が使われますが、色糸が使われることもあります。

丈夫で安価なことから中流階級に好まれ、ベルギーをはじめ、フランス、イタリア、ザクセン(ドイツ)、スウェーデン、スペインなどヨーロッパ全土で作られていました。

もともとは手製でしたが、20世紀初頭からレース編みが機械化されると、他の多くのボビン・レースと同様、トーション・レースも機械生産されるようになりました。シンプルなデザインのため、機械製でも手製のレースとほとんど見分けがつかないものが多いそうです。

トーション・レース【Torchon lace】

トーションとはフランス語で<布巾(ふきん)><雑巾(ぞうきん)>の意味。太い麻糸や木綿糸で編まれた、あらいが耐久性のあるせまい幅のレースで幅20センチが限度である。縦、横の線をたどってつくられるボビンレースで、できあがりが直線的で単純な模様である。縁飾り、またはつなぎあわせてブラウス、ストール、ドレスなどもつくることができる。<ベガーズ・レース(beggar’s lace)><ペザント・レース(peasant lace)><バヴェーリアン・レース(Bavarian lace)>ともよばれている。

トーション・レースの同類として見なされることの多い「バンシュ・レース(Binche lace)」は、フランドル地方のバンシュ(Binche)という町で登場した連続式のボビン・レースです。
トーション・レースと同様、幅5cmほどの細長いテープ状のレースで、ハンカチーフやテーブルクロス、下着の縁取りやインサーションに使われましたが、トーション・レースよりもデザイン性が高く軽やかだったため、ドレス、ブラウス、ネックウェアなどにも使われたようです。

15世紀にブルゴーニュ公シャルル豪胆公の妃マルグリット・ド・ブルゴーニュ(Marguerite de Bourgogne,1393-1442)とともにこの町に移住してきたレース職人が伝えたという説もあり、その発祥は定かではないものの、16世紀末にはすでに作られていたようで、この町が一時フランス領となった17世紀にはロココ調の影響も受け、独自のスタイルが確立されていったようです。
初期のバンシュ・レースは「ギピュール・ドゥ・バンシュ(Guipure de Binche)」と呼ばれており、模様の輪郭にギム糸や太い糸を使ったギピュール(「レース(10)」参照)だったようです。

初期のヴァランシエンヌ・レース(「レース(12)」参照)によく似た緻密なデザインで、「ネージュ(neige)」と呼ばれる雪の結晶のような模様が散りばめられた地に、巻きかがりされた花柄や動物、人などの細かい模様が描かれており、このレースも「Point de fée(妖精のレース)」と呼ばれるまでに完成度を高めました。
フランスの作家ヴィクトル・ユーゴー(Victor-Marie Hugo,1802-1885)は、若い頃に見たこのレースの美しさの記憶により、作品「レ・ミゼラブル」のコゼットの婚礼衣裳の素材にバンシュ・レースを登場させています。

18世紀のフランス宮廷で大流行となりましたが、他のレースと同様、フランス革命を機に衰退していきました。 その後、バンシュ・レースは機械編みのレースとして復活し、今でも世界の人びとから愛されています。

バンシュ・レース【Binche lace】

フランドル地方バンシュの町でつくられるボビン・レースで、古いヴァランシエンヌ・レースにひじょうによく似ている。その起源は、遠く17世紀にさかのぼり、この当時のバンシュ・レースはギピュール・ドゥ・バンシュ(guipure de Binche)とよばれ、雪の結晶のように点々と散らばった模様のある繊細な地に、巻きかがりした花模様などがついていて、ヴァランシエンヌ・レースの模様よりも変化にとんでいた。近代のバンシュ・レースは、機械編となっており、その上にボビンで編んだ小枝模様がついている。ドレス、ブラウス、ネックウェアなどに用いられる。フランドルは中世期におけるヨーロッパ西部にあった国で、現在のベルギーの東フランドル、西フランドル、およびそれに隣接するフランス北部とオランダ南西部をふくむ地方である。

細長く編まれていく連続式のストレート・レースには、トーション・レースやバンシュ・レースのようなテープ・レースが多くあります。
ブレイド(組ひも)がボビン・レースの起源だ(「レース(9)」参照)ということもありますが、テープ・レースは使い勝手が良いため、その技法は世界各地に広まり、独自のレースを生み出しました。
私たち日本人も「レース」というと、テープ・レースを思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。

テープ状のまま縁取りなどで使用することが多いかと思いますが、柄のように布地にあしらったり、何本かをつなげて生地のように使用できたり、とても便利なレースです。

ご紹介したいストレート・レースはまだまだありますが、この辺にして、次回は非連続式のレースをご紹介していきたいと思います。お楽しみに。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。