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渋谷ファッション&アート専門学校

服飾専門課程
(ファッション)

ハンカチーフ

Handkerchief

ファッション豆知識COLUMN

今年の夏も猛暑ですね。
外に出ると、とたんに流れる汗が止まりません。

汗のニオイも大敵ですが、顔周りの汗はさらに不快指数を高めます。特に女性は化粧崩れも気になりますよね。
そんな汗を拭う際にもおしゃれはできます。そう、ハンカチです。
以前、高校野球の投手で、試合中白いハンカチで汗を拭うことから「ハンカチ王子」と呼ばれた選手がいましたね。男女ともに使用されるアイテムです。

この「ハンカチ」、「ハンカチーフ」の略ですが、「ハンカチーフ」という名称の由来、知っていますか?なんとなく「ハンド」と「カチーフ」の組み合わせに思えますよね。それはほぼ正解で、「ハンド」と「カーチフ」が合わさった言葉なのだそうです。

「カーチフ(kerchief)」は、主に頭を覆うのに使われる、正方形の大きな布のことです。特にヨーロッパの女性が使い、農民の民族衣装などによく見られます。
語源は「cover chief(頭を覆う)」という意味のノルマン語で、「chief(chef)」は「頭」を意味するのだそうです。首に巻けば「ネッカチーフ (neckerchief)」と呼ばれます。
装身具として着用されることも多く、刺繍・染物などで美しい模様が描かれていたりします。

頭に着用する正方形の布といえば、もう少し小ぶりな「バンダナ(bandana)」が思い出されますが、バンダナは絞り染めや更紗模様で染めた木綿のカーチフといえます。同じく似たものに「スカーフ(scarf)」もありますが、スカーフはもともと首元のおしゃれで着用されていました。今ではスカーフをカーチフのように頭に巻いたり、その使用方法は様々です。

普段は洗った手を拭く、汗を拭うなどに使われるハンカチーフ。欧米人はこのハンカチーフを、洟(はな)をかむことなどにも使い、初めて目にした時はびっくりしたものですが、こうした使用方法は古くから行われており、言葉の由来をみてもわかります。例えばもともとフランス語で「ハンカチーフ」を意味する 「mouchoir」は、「洟(はな)をかむ」という動詞「moucher」から来ており、今では「ティッシュ」の意味でも使われています。ハンカチーフをポケットに入れるようになったのも、この洟(はな)をかむためなのだそうですよ。

また、食事の時にナプキンとして手や口を拭く人もいます。ナプキンは、すでに古代ローマ時代にはあったと言われていますが、カーチフとしての起源はもっと古く、紀元前2000年頃には裕福なエジプト人の間で、太陽光から頭を守るための白く漂白された麻布が使用されていたのが確認されています。

紀元前1000年頃の中国でも、頭を守るためと思われるフリンジで縁取られた布切れを提げている彫像が残されており、これを起源とする学者もいます。また、紀元前700年頃のペルシャでは、ハンカチーフは高貴さの象徴として王族のための贅沢品として使用されており、最高級の絹に刺繍飾りを施したり、装飾性も高かったようです。
紀元100年頃の古代ローマ人は、汗を拭く麻布を「汗を拭く」という意味の動詞から「スダリウム(sudarium)」と呼んでいましたが、その後アウレリアヌス皇帝がこの麻布を「高級官僚のための贈り物」という意味の「オラリウム(orarium)」に変更しました。この「オラリウム」を、競技場での戦車のレースが開始される際に、観客が一斉にアリーナに向けて投げ込んだそうです。
このようにハンカチーフは世界各地でその起源がみられますが、いずれも高貴な身分の人が持つものでした。

近代のような小型の装飾品としてのハンカチーフは、中世ヨーロッパにおける上流階級の人々の間で持たれるようになりました。

特にメディチ家が栄華を誇っていたルネサンス期のヴェネツィアでは、メディチ家のファッショニスタ、カトリーヌ・ド・メディチがレースを大層愛でたために、レースで縁取られたハンカチーフが流行りました。このレースはヴェネツィアンレースと呼ばれ、ルネサンス絵画の中には、このレースで縁取られたハンカチーフを持つ高貴な女性たちが多く見られます。
彼女がアンリ2世と結婚しフランスに渡ると、このレースのハンカチーフや香り付きのハンカチーフなどが、多くの新しいファッションスタイルとしてフランスに持ち込まれました。フランスの職人たちはそのレースに絹の美しい刺繍を組み合わせ、さらに装飾性が発展したのです。
16世紀後半には、ヨーロッパ中の貴族たちがこのレースや刺繍に加え、宝石や金や銀のタッセル飾りなどの豪華な飾りを施して贅を競い合い、ハンカチーフの装飾性はさらに増していきました。そのため、遺言で遺産として贈られるほど貴重なものもあったそうです。
フランスのアンリ4世は、愛人に大切なハンカチーフを2枚贈りましたが、その愛人が亡くなると、すぐさまそのハンカチーフを取り戻そうとしたとか。

ちなみに男性のおしゃれであるポケットチーフも、このルネサンス期のヴェネツィアで始まり、そこからヨーロッパ中に広まったと言われています。ポケットチーフは今でも、特に男性のおしゃれ度を上げるアイテムとして、正装時やパーティーなどの盛装で重要なアクセントになっています。

装飾性の高い豪華なドレスや小物、といえば思い出されるのが、18世紀末のヨーロッパにおけるファッションリーダー、フランス王妃マリー・アントワネット。

当時大きく、円形や長方形など様々な形をしていたハンカチーフはおしゃれではない、と、現在も使用されているサイズの10または11.5インチ四方の正方形を規格として統一するよう、夫のルイ16世に頼んで布令を出してもらったとか。
ただしこれは彼女が正方形を好んだ、というより、自分だけが様々な形のハンカチーフを持ちたかったために、国民に正方形のハンカチを持たせた、とも言われています。しかし正方形のハンカチは、扱いやすかったことから国民に評判となり、正方形のハンカチーフは世界中に広まりました。
日本では、そのマリー・アントワネットの誕生日(11月2日)に一番近い祝日、11月3日 文化の日を「ハンカチーフの日」としています。

また、中世のヨーロッパでは、ハンカチーフは「婚約のしるし」としての役割を担うようになりました。今でいう婚約指輪ですね。
古い物語の中でも、戦さにでかける騎士に恋人の女性が「自分の身代わりに」と、自分のイニシャル入りのハンカチーフを贈るという話が多くあります。
シェイクスピアの四大悲劇「オセロ」でも、主人公オセロが愛妻デズデモーナに送ったハンカチーフが悲劇をもたらすきっかけとなっていましたね。

実際にも、ハンカチーフが愛の贈り物や小道具として本格的に用いられました。
舞踏会中、人目を偲ぶ逢引の約束の印として使われたり、また愛の証として、自分のイニシャルや紋章入りのハンカチーフを恋人に贈ることが盛んに行われたようです。
おそらくこれは、この頃にはハンカチーフがエチケットとしていつも身に付けられていて、自分の分身のようなものだったからでしょう。また、ハンカチーフの美しい形態が、恋人たちの絆をよりロマンティックに演出してくれたことでしょう。

ハンカチーフの素材は、それまで汗を吸い取りやすく丈夫な麻や、装飾品としては絹が主流でしたが、綿が登場すると、加工が簡単で、しかも安価な綿製のハンカチーフが世界各国に一気に拡がりました。

日本にも明治維新の頃、洋装とともにハンカチーフがやって来ました。それまでの日本人は「手拭い」を使っていましたが、洋装にはやはりハンカチーフ。
また、1886年頃の女学生の間で、首にハンカチーフを巻くのが流行したと、当時の時事新報が伝えています。いつの時代も若者が新しいおしゃれを創造していくのですね。

以降のハンカチーフは、前回取り上げたサングラスと同様、様々なヴァリエーションが登場し、ハイブランドのライセンス商品も多く市場に出回り人気です。
その使用方法も、手や汗を拭うだけではなく、ファッションアイテムとしても多様になりました。

最近は、機能性の高いものも多く出ています。近年の清潔志向を反映し、抗菌加工を施した素材もあります。
また、ハンカチーフの扱いで面倒といえば、アイロン掛け。こちらもアイロン不要な加工を施したものが開発されたり、今やタオル地のものを愛用している人も多いのではないでしょうか。

よく子供の頃の外出時に、「ハンカチ持った?」と親に確認されたりしましたが、ハンカチーフの携帯はエチケットのひとつ。特に女性はハンカチーフ1枚で、女の株を上げることもあります。
ぜひ、あなたらしい美しい1枚を持ってお出かけください。

ハンカチーフ【Handkerchief】

手をふいたり、首にまいたり、衣服の飾りに用いたりする小形の布で、実用装飾品である。
また<首まき>という意味もある。すでにローマ時代の人はマッパ(ナプキン)を用いて口や手をふいたといわれる。近代のような小型のハンカチーフは、中世末期にヨーロッパ上流社会の人びとの間で、装飾品として持たれはじめられた。16世紀ごろには絹地に刺繍があるものやレースのふち飾りのついたハンカチーフがつくられ、ひじょうにぜいたく品とされ、また愛のしるしのプレゼントとして用いられもした。17世紀はレース全盛時代で、宝石を飾った豪華なものが出現する。1785年にフランスの王妃マリー・アントワネットが「ハンカチは正方形にすべし」との布告をだしており、当時種々の形のハンカチーフがあったことや、また当時の人たちのハンカチーフについての関心ぶりがうかがわれる。胸のアクセサリーになったのは19世紀で、上着の胸ポケットに飾られた。現代のハンカチーフはほとんど正方形で、木綿、麻、絹などが使われている。一面に刺繍で埋めたぜいたくなものもある。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

文/佐藤 かやの(フリーライター)