ファッション豆知識

ベスト(3) 

ベスト ファッション

早いもので、もう12月に入ってしまいました。
12月はクリスマスや忘年会などがあり、家族や友だち、ビジネスでのパーティーや会食、大切な人とのフォーマルなディナーなど、特別な会食の機会が増えるシーズンです。

ベストは、そんな特別な会食時の男性のオシャレとして活躍するアイテムです。
というのも、男性の場合、「ベスト」、つまりイギリスでいう「ウエストコート」は、前回お話ししたように、もともと男性の正装や礼服、あるいはスリーピース・スーツ(三揃い)に中衣として着る衣服だからです。

ベスト ファッション

正装や礼装には様ざまな取り決めやマナーがあります。(「礼服」参照)

礼服としてウエストコートを着用する際は、基本的には柄物は避け、無地のものを着用します。

昼間の正礼装や準礼装では、黒やダーク系の色の上着に黒のウエストコートというのが伝統的な合わせのようですが、結婚式などの慶事では、黒のウエストコートに白い襟を付けたり、淡い黄褐色(バフ色)や紫がかった灰色(ダブ・グレー)のものを合わせることも多いそうです。日本の結婚式では、ネクタイと合わせてシルバーや白のウエストコートを着用するのが人気のようです。

夜の正礼装(ホワイトタイ)や準礼装(ブラックタイ)の場合は、黒やダーク系の色の上着に、白か黒のウエストコートを合わせるのが好ましいとされています。

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それほどフォーマルではないスリーピース・スーツ(三つ揃い)においても、紳士のオシャレとして、色いろ留意点があるようです。

まず、「スリーピース・スーツ(三つ揃い)」とは、すべて同一生地で仕立てられたジャケット、ウエストコート、パンツの3つのアイテムから成る一式を言います。
ちなみに、私たち日本人は「スリーピース」と略して呼んでいますが、単に「スリーピース」だと英語圏では通じません。正しくは「three-piece suit」ですので、英語を使う際は注意してくださいね。

スリーピース・スーツのウエストコートは、前身頃の生地はジャケットやパンツの表地と同じもの、後身頃の生地はジャケットの裏地と同じものを使用するのが一般的です。背中がツルツルしている方がジャケットの背中の部分との摩擦が少なくなるので、ジャケットの着脱がしやすいためです。
また、ウエストコートの背中には、だいたい小さなバックルが付いていて、サイズの調整が多少できるようになっています。

前も後ろもジャケットの表地と同じ生地で作るウエストコートもあります。こちらはジャケット無しでも着用しやすいためか、最近多く見かけるように思います。

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ちなみに、スリーピース・スーツにオーバーコートを追加して「フォーピース」と、日本ではよく言われていますが、欧米の場合「four-piece suit」で追加されるアイテムは、仕立て屋によっても異なり、ネクタイが追加される場合もありますし、予備のパンツを追加する場合もあります。

ウエストコートだけでなく、帽子やカバン、ネクタイなど小物類までスーツと同じ生地で作る一式のことを「ディトーズ(dittos)」と言います。
日本では、よほどスーツのオシャレにこだわりのある人でないと、オーダーメイドでディトーズを作ることはないと思いますが、例えばハリスツイードの生地でスーツを仕立てた際に、市販品のハリスツイードの帽子やバッグを合わせて着用するというように、似たような生地で小物を合わせることはできそうですね。

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現代のスリーピース・スーツの原型は、1666年10月7日にイギリス国王チャールズ2世(Charles II, 1630-1685)が出した「衣服改革宣言」によって生まれた「コート(ジャケット)+パンツ+ウエストコート+シャツ+タイ」というスタイルだと言われています。
このスタイルが伝統的な「ブリティッシュ・スタイル」として、今も受け継がれています。

それまでの男性の服装は、シャツの上に着丈が短くぴったりとした「ダブレット(doublet)」と呼ばれる上着を着て、「ブリーチズ(breeches)」という半ズボンを履くスタイルが基本でした。
当時、ファッションは男性の出世の大きな要素だったようで、全身にレースやリボンをつけたり刺繍を入れたり、ブリーチズに詰め物をしたりと、女性よりも華やかに着飾っていたようです。

しかしその頃のイギリスは、度重なる戦争に加えてペストの大流行やロンドンの大火事など災禍が続き、財政難に苦しんでいました。
そこで、チャールズ2世は、貴族たちの豪奢な服装をあらため倹約を促す目的で「衣服改革宣言」を発令したのです。
華美なレースやリボン、羽飾り、長髪のかつら、ハイヒール、化粧などは消えていきましたが、唯一オシャレできるアイテムがウエストコートでした。以降、貴族たちはウエストコートを贅沢品として発展させていったのです。

ウエストコート(ベスト)の歴史については、また後ほどあらためてお話ししたいと思います。

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イギリス紳士の礼装やスリーピース・スーツの身だしなみに沿って、ウエストコートについて少しお話ししてきましたが、まだまだその着用にはマナーや留意点があります。特別な会食時には、そういったマナーなどをおさえてオシャレしたいものですね。

次回は、ウエストコート着用のマナーや留意点について、引き続きお話ししたいと思います。お楽しみに。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。