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ファッション豆知識

トレーナー(スウェットシャツ)(1)

前回までの「パーカー」で、日本の「パーカー」という呼び方は和製英語で、実は欧米ではスウェット地の「Hoodie(フーディー)」とアウターの「Parka(パーカ)」に分かれるというお話をしましたが、今回も同じように異なる呼び方を持つアイテム、「トレーナー」のお話です。

まず、英語で「Trainer」と画像検索してみてください。出てくるのはスポーツの指導員のような画像ばかりで、私たちが知っているファッションアイテムの「トレーナー」は見当たりませんよね。
そうなのです、「トレーナー」というのも日本独自の言葉なのです。

では、私たちが「トレーナー」と呼んでいるものは、英語では何と言われているのでしょう? 前回までの「パーカー」を思い出してください。「Hoodie(フーディー)」というのは、欧米でのフード付きのスウェットシャツの呼び方で、正しくは「Hooded sweatshirt(フーデッド・スウェットシャツ)」と表されましたね。「トレーナー」はこのフーディーからフードを取り除いた形状ですから、そう、英語では「Sweatshirt(スウェットシャツ)」と言います。

トレーナー 【Trainer】

裏起毛または裏パイルのコットン・ジャージーなど吸湿性のよい素材でつくられ、ラウンド・ネック、ラグラン・スリーブ、袖口と裾のゴム編などを特徴にした、プルオーバー式を代表とするシャツ。日本で親しまれているよび名で、スウェット・シャツ、トレーニング・シャツともよばれる。

では、なぜ日本では「スウェットシャツ」が「トレーナー」と呼ばれるようになったのでしょう?

「トレーナー」という呼び名は、日本のメンズ・ファッションの礎を築き、アイビールックの生みの親でもある、「ヴァンヂャケット(VAN Jacket)」の創業者の石津謙介氏によって名付けられたそうです。
当時、スポーツのトレーニング・ウェアとしてアメリカで広まっていたコットン製のスウェットシャツを普段着として紹介したのが「トレーナー」でした。汗臭い名前はファッションには似合わないという理由で、スポーツジムのトレーナーが着用していたことから名付けられたとも言われています。

ちなみに、「時と場所と場合」という意味の「TPO」という言葉がありますが、この「TPO」という概念を提唱したのも石津謙介氏なのだそうです。
さらにまったくの余談ですが、この石津氏は、今人気のファーストサマーウイカさんの親族なんだとか。

最近はパーカーと同様トレーナーも、GAP、ZARAやH&MのようなグローバルSPA型企業の台頭や、ショッピングがインターネットによってグローバル化していることもあり、英語の呼び方に合わせて「スウェットシャツ」と表記されることが増えてきたように思います。日本では略して「スウェット」のみで表記されることが多いですが、英語ではスウェットシャツとスウェットパンツを「Sweats(スウェッツ)」と呼ぶことはあっても、「Sweat(スウェット)」とは呼ばないので注意です。

「新・田中千代服飾事典」の「トレーナー」の項のすぐ下に「トレーナー・シャツ」という言葉もありますが、こちらを見ると「運動選手などが用いるメリヤス木綿のシャツ」とあります。
日本のトレーナー、つまりスウェットシャツはもともとスポーツウェアとして登場しました。

トレーナー・シャツ 【Trainer shirt】

運動選手などが用いるメリヤス木綿のシャツ。運動選手ばかりでなく、若い人の遊び着用としてシャツにおもしろい絵を描いたものもみられる。

19世紀後半、アメリカのアイビー・リーグのフットボール選手がトレーニングの際に採用した動きやすいニットのユニフォームを、ニット製品の卸販売会社だったチャンピオン(Champion)が改良し、防寒用下着としてウール製のスウェットシャツを開発します。この下着のスウェットシャツは、その後Tシャツの原型にもなります。(「Tシャツ」参照)

けれどもウール製だと、肌に擦れてかゆみを引き起こすのが難点でした。
アラバマ・クリムゾン・タイド・フットボール・チーム(Alabama Crimson Tide Football team)のクォーターバックだったベンジャミン・ラッセル・ジュニア(Benjamin Russell Jr.)という青年も、このウール製のユニフォームが引き起こすかゆみにうんざりしていたひとりです。彼は、女性や子ども用のニットウェアを製造する「ラッセル・マニュファクチャリング・カンパニー(Russell Manufacturing Company)」を経営する父と協力して、1920年にコットンを使用した厚手のトレーニング・ウェアを開発しました。このゆったりとした襟なしのプルオーバーが、現在「スウェットシャツ」と呼ばれているものの原型と言われています。 このコットン製のスウェットシャツは大ヒットとなり、スウェットシャツの生産に特化した「ラッセル・アスレチック・カンパニー(Russell Athletic Company)」という新会社が立ち上がったほどでした。

スウェットシャツ 【Sweat shirt】※Sweatshirtとも表記されます

運動選手が汗を吸いとるものとして着用するセーターのことで、木綿のメリヤスを裏起毛したものである。

同じスポーツウェアでスウェットシャツと混同されがちなのが「ジャージ」です。

この「ジャージ」という呼称も日本独自のもので、これはもともと英語の「Jersey(ジャージー)」が由来です。
ジャージーは、スウェットシャツと同じく、メリヤス編み(平編み/天竺編み)で織られた伸縮性の高い生地、またはその生地で作られた衣類、特にスポーツウェアのことを指します。

もともと「ジャージー」というのは、「ジャージー牛乳」などでも有名な、イギリス海峡のチャンネル諸島にあるジャージー島という小さな島のことで、17世紀以来、この島でとれる羊毛を使用して作られてきた漁師の作業着が、その名の由来になっています。
この作業着が伸縮性の高いメリヤス編みの生地だったために、アメリカにおいて伸縮性のあるメリヤス生地、およびメリヤス生地で作られたスポーツウェアを「ジャージー」と呼ぶようになったのだそう。

ただし、日本人が「ジャージ」と呼ぶ学校の体操着として着られるようなジップアップのスポーツウェアは、アメリカの「ジャージー」とはまた違うアイテムです。
アメリカの「ジャージー」は、サッカー選手やバスケットボール選手が着用するゼッケンが付いたシャツのことで、「ベースボールシャツ」、「(アイス)ホッケーシャツ」など「シャツ」と呼ばれているものはたいてい「ジャージー」です。 一方、日本で一般に「ジャージ」と呼ばれているトレーニングウェアは、英語では「Tracksuit(トラックスーツ)」と呼びます。ちょっと複雑ですね。

ジャージーとスウェットシャツの違いは、素材と厚さです。
ジャージーは、綿やポリウレタンを使ったものもありますが、おもにポリエステルが使われています。
スウェットシャツは、最近はポリエステルなど他素材と混紡したものもありますが、基本、厚めのコットンで作られるのが主流です。そのため、日本ではスウェットシャツのことを「綿ジャージ」と呼ぶこともあります。
また、ジャージーは薄手、スウェットシャツは厚手のものが主流です。
その素材と厚さの違いから、ジャージーはスウェットシャツよりも軽く、伸縮性と耐久性が高いため動きやすく、より激しい運動に向いています。

ジャージーは速乾性が高いので汗を吸ってもすぐに乾きますが、汗を吸水しにくいという弱点があります。そのため汗を多くかくと、肌にぺったりくっついてしまったりします。
スウェットシャツは、裏地を吸水性の高いパイル地や起毛にしているため、汗をかいてもすぐに生地が汗を吸ってくれるので快適です。

また、ジャージーはスウェットシャツに比べて保温力はないため、おもに身体を動かすスポーツ時の着用が主流です。

とはいえ、そんなスポーツ専用と思われていたジャージーを、ファッションに取り入れたことで有名なのはRun-D.M.C.(ラン・ディーエムシー)、Jamiroquai(ジャミロクワイ)、Oasis(オアシス)といったミュージシャンたちでした。その背景はフーディーと同様です。(「パーカー(2)」参照

ジャージー【Jersey】

ニット生地およびその製品の総称。ジャージーという名は、英仏海峡の島の名前で、この島でとれる羊毛を原料とした毛糸で編んだニット生地のことであるが、これが転じて毛編のセーターをさすようになったもの。以前にはジャージーといえば、ほぼシャツ類にかぎられて使用されたが、近年はジャケット、ワンピース、スーツ、コートなど多くのものに使われ、材質も毛、木綿、絹、化学繊維などがある。伸縮性にとんでいるのが特徴。布のように裁断してつくるものと、輪になって縫目のないものとがあるが、あまり薄いものは下着的な感じになるので二重織、あるいは三重織になって表がジャージー、裏がツイードといったものもみられる。また編物でつくられたプルオーバー・スタイルで、脇縫目のないゆったりしたスポーツ用のシャツのこともジャージーという。

なんと、「トレーナー」も「ジャージ」も「パーカー」と同様、日本独自の和製英語でしたね。

また、トレーナー(スウェットシャツ)とTシャツは、アメリカのファッション史的にみると、兄弟アイテムのようなものなのだとわかりました。
そしてこの兄弟アイテムにジーンズが合わさると、「アメリカン・カジュアルのすべて」と言っても過言ではないでしょう。
そういえば、ジーンズをかつて日本では「ジーパン(ジーンズ・パンツの略)」と呼んでいましたが、それも和製英語ですね。

アメリカのファッションを取り入れる際の、当時のファッション関係者たちの意図や文化背景を考えると、そうした和製英語の成り立ちを知るのも、また興味深いことだな、と思います。

次回は、トレーナー自体についてのお話です。お楽しみに。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。