ファッション豆知識

パーカー(1)

4月に入ってだいぶ暖かくなりましたが、まだまだ肌寒いこともあるこの時期、何を着たら良いか困りますよね。
さすがにもう冬のセーターは着られないけれど、トレーナーだけでは心もとないといった時、活躍するファッションアイテムといえば「パーカー」ではないでしょうか。

人間、首、手首、足首といった「首」が付く箇所を温めると、全身にまわる血が保温され、少し薄手の衣服でもあたたかく過ごせます。そのため、フードが付いているパーカーは首周りを温めてくれますし、フードをかぶればさらに保温性が高まります。

反対に少し暑い時は、スウェットなどシワにならない生地が使われているため、脱いで丸めてカバンにしまったり、腰に巻いたり、肩にかけたりもでき、寒暖の差がある時期の温度調節アイテムとして大変便利です。 (スウェットについては「Tシャツ」の回もご参照ください)

さて、皆さんは「パーカー」と言ったら、どんなタイプのパーカーを思い浮かべるでしょう?
多くの人は、スウェット地のプルオーバータイプのパーカーを思い浮かべるのではないでしょうか?もしくは、前にジップ(チャック)があるジップ(アップ)・パーカーもポピュラーですね。

その他に、マウンテン・パーカー、アノラック・パーカー、ハイネック・パーカー、Vネック・パーカー、ショート・パーカー、スリット・パーカー、ダンボール・パーカー、ニット・パーカー、ヨット・パーカーなど、パーカーには様ざまな種類があります。

そのパーカー、最近は「フーディー」と表記されることが増えてきましたよね。どうやらこれは単に新しい言い換えではなく、以前お話しした「スパッツ」と「レギンス」のような背景があるようです。

「Hoodie(フーディー)」というのは、欧米でのフード付きのスウェットシャツの呼び方です。「Hoody」とも書かれることがありますが、正しくは「Hooded sweatshirt(フーデッド・スウェットシャツ)」と表されます。

「Hood(フード)」は帽子の一種で、頭巾(ずきん)のようなかぶりものです。フードが付いているものは「Hooded」と表記されますので、例えばフード付きのジャケットは「Hooded jacket」、フード付きセーターは「Hooded sweater」などとなります。
ちなみに美容院にある頭にかぶせるタイプのドライヤーは、「Hooded drier」と呼ばれるのだそう。

フード【Hood】

帽子の基本型の一つで、頭をゆったりおおう<頭巾(ずきん)ふう>のかぶりものをいう。多くあごの下で紐結びにしたり、ボタンでとめて用いるが、コートやケープと続いたものもある。フランス語では、カピュション(capuchon)という。

「フーディー」と表記されることが増えてきたとはいえ、日本ではまだまだこのフード付きのスウェットシャツを「パーカー」と呼ぶことが一般的です。
でも実はこれは「スパッツ」と同様、日本独自の呼び方なのです・・・
(「レギンス」の回参照)

では「パーカー」という呼び方の由来は、何なのでしょう?

日本の「パーカー」の名前の由来は、「パーカ(Parka)」というフードが付いたアザラシやトナカイなどの毛皮で作ったイヌイット(エスキモー)の防寒着なんだそうです。フランスでも同じ綴りで「パルカ(Parka)」と呼ばれています。

現在、欧米の「Parka」は、毛皮で作ったイヌイットの防寒着というより、一般的にはフード付きのジャケットやブルゾン、防水性のあるコートといったアウターを指します。薄手のスポーツタイプのものからダウン・ジャケットタイプのものまで、そのヴァリエーションの範囲は広まっているようです。

パーカ【Parka】

もとはロシア語で<毛皮製の上着>あるいは<エスキモーの用いる防寒服>のことをいったが、現在は英語化され、ヤッケ、アノラックなどと同義になり、フード付のかぶり式ジャケットのことをさす。夏に海岸で船遊びなどをするためのものにヨット・パーカとよばれるものがある。

おそらく、欧米人がフードが付いているアウターを「パーカ」と呼んでいたため、それを聞いた日本人がフードが付いている衣服はすべて「パーカ」だと思ってしまい、その「パーカ」が「パーカー」となってしまったのでしょう。

ですので、欧米では「Hoodie」と「Parka」は同じくフードが付いていても、スウェットシャツは「Hoodie」、アウターは「Parka」と区別して認識されています。
特に海外でのショッピング時などでは要注意です。ショップスタッフに「パーカーはありますか?」などとたずねると、おそらくフードが付いているアウターを出されてしまうでしょう。また海外の通販サイトでも同様だと思います。 スウェット地のパーカーが欲しい場合は、「Hoodie」もしくは「Hooded Sweatshirt」で探してみましょう。

「パーカー」と「パーカ」と「フーディー」の違い、理解していただけましたでしょうか?

先に、パーカーには様ざまな種類があるとお伝えし、その例をいくつか挙げましたが、それらは日本語ではすべて「パーカー」と呼ばれていても、英語では「Hoodie」と「Parka」に分かれます。
どれが「Hoodie」で、どれが「Parka」でしょう?

例えば、スウェット地のプルオーバータイプのパーカーは「Pullover hoodie」と書かれることもありますが、フーディーの基本型なので、英語では単に「Hoodie」でOKです。
前にジッパーが付いた「ジップ(アップ)・パーカー」もスウェット地であれば、英語では「Zip up hoodie」です。

ちなみに、日本でよく知られている「ヨット・パーカー」は、防水性のある薄手のアウターを指すので「Parka」ですが、それ自体和製英語で対応する英語はないそうです。同様のものを調べてみると、「Hooded sailing jacket」と言われていることが多いようです。

アウトドア・ファッションで人気のあるジップアップタイプのマウンテン・パーカーは、アウターなので「Parka」に分類されます。英語では「Mountain parka」と言います。ただし、薄手のマウンテン・パーカーの場合、まれに「Mountain hoodie」と呼ばれることもあるようです。

同じアウトドア用のパーカーでかぶって着用するアノラック・パーカーは、英語では「Anorak」です。そのためか日本でも単に「アノラック」と呼ばれることの方が多いかもしれません。
ちなみに「Anorak」という言葉はもともと、イヌイット(エスキモー)が着ていたフード付きのアウターを表していた言葉だとのこと。つまり「Anorak」と「Parka」は本来ほとんど同じ意味として使われていた言葉のようです。
厳密に言うと、「Parka」はイヌイット語で「毛皮を使った上着」、「Anorak」は「風を防ぐための上着」とのことですが、用途がほぼ同じため、現在ではあまり区別なく使用されているようです。強いて言えば、英語では「Parka」が、フランス語では「Anorak」が多く使われる傾向にあるのだそう。
ですので、日本で言う「アノラック・パーカー」は、英語では同意語を反復することになり違和感を与えかねないので、英語では使わないようにしましょう。

こうしてみると、最近「パーカー」が英語の呼び方に合わせて「フーディー」と表記されるようになったのは、単にファッションだから新しい言葉で購買喚起しようということだけでなく、GAP、ZARAやH&Mのようなグローバル SPA 型企業の台頭や、ショッピングがインターネットによってグローバル化していることも要因としてあると思います。
そういう意味では、これからもそういったファッション・アイテムの言い換えが多くあるかもしれませんね。

次回は、パーカーの歴史についてお話ししたいと思います。お楽しみに!

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。