ファッション豆知識

レース(2)

みなさんは「レース」といったら、どのようなレースを思い浮かべますか?

前回、日本はレース技法に対する認識が低いのではないか、という見解があることをお話しましたが、確かに「レースの種類」を問われても、すぐにいくつか答えられる、という感じではありませんよね。

ウェディング・ドレスやフォーマル・ウェアには欠かせないレースですが、普段のカジュアルなファッションの中にもレースは多く使われています。

女性の下着にも多くのレースが使われます。最近はストレッチ・レースなど素材が進化したため、総レースのレース下着も、エレガントでセクシーさがあるだけでなく、肌触りも良いのでとても人気のようです。
でも驚きなのは、なんと男性のボクサーパンツでも、レース素材がふんだんに使われているものが出ているそう!

レースは、使う種類、そして使う場所や分量など、使い方次第でエレガントにもなりますし、可愛らしくもなります。透け感がある素材なので、使用する部分が多くなれば、セクシーさも演出します。

それだけ、レースはファッションの方向を左右する、重要な装飾アイテムと言えるでしょう。
それゆえレースは刺繍と同様、とても多くの種類があります。

レースLace

種類

レースは大別して、機械レースと手編レースにわけられ、さらに手編レースはニードルポイント・レース、ボビン・レース、エンブロイダリー・レースなどにわけられる。レース編はいろいろな国や地方で行われたものであるから、そのよび名もあげきれないほど 多い。すなわちそれがつくられた国名、地方名、発明者名などをとってレースの名称としたもの、また、技法や材料をよび名としたもの、あるいは形がそのままよび名となったものなど多種にわたっている。機械レースがさかんなときでも中世の修道院において奉仕的な仕事として手編レースは編まれていた。

まず、作られ方で大きく分けると、これも刺繍と同じく、

・手工レース(「新・田中千代服飾事典」では手編レースと表記)
・機械レース

に分けられますが、基本の手工レースからみていきましょう。

ざっくりとその技法で分けてみると、

でステッチを施すもの
・針や道具を使って編むもの
・織りの技法を使うもの

があります。

はじめに、でステッチを施して作るレースをご紹介したいと思います。
「針でステッチ」といえば、刺繍ですよね。
今日私たちが目にするような、装飾を目的とする独立した形のレースは、「刺繍(9)」でご紹介した「エンブロイダリー・レース(刺繍レース)から発展しました。

中でも「レティセラ/レティチェラ(Reiticella:伊)」と呼ばれる16世紀中頃にイタリアのヴェネツィアで考案された繊細で美しいレースは、当時の貴人たちを虜にしました。
えり<襟・衿・領>(3)」を読んでくれているみなさんは、「ラフ(襞襟)」という大きなエリマキトカゲのような豪華な襟を覚えてますでしょうか?あのラフに使われていたレースがレティセラです。

イタリア語で「小さな網」を意味するレティセラは、目の粗いの布に、小さな円や幾何学模様などのモチーフを刺繍した後、糸を引き抜いて網目状にし、さらにステッチで補強し模様を作る、という非常に手間暇かけられたレースです。従来からあった技法のドローン・ワークやカット・ワーク(※「刺繍(8)」参照)を併用して、複雑な模様を描いています。当時の肖像画に描かれているラフをよく見ると、その緻密で複雑な模様がよく表されていて、その技術の高さに感心します。

このレティセラからと糸で作る「ニードル・レース」と呼ばれる技法が誕生します。

「ニードルポイント・レース」という言葉も同義で使われていて混同するのですが、多くの場合、レティセラのような「エンブロイダリー・レース(刺繍レース)」と「ニードル・レース」の両方を含めた意味であることが多いようです。

レティセラは「ニードルポイント・レースの元祖」とも言われますが、「刺繍(8)」でも書いたように、厳密には「レース」ではなく「刺繍」として西洋では区別されています。(日本では「レース」の一種と認識されていますが)
ですので、真の「ニードルポイント・レースの元祖」は、その後レティセラを発展させて17世紀前半に登場した「プント・イン・アリア(Punto in aria:伊)」だと、西洋一般では認識されています。

プント・イン・アリアはイタリア語で「空中のステッチ」という意味だそうで、それまでのレティセラのように地布を土台にするのではなく、最終的に糸のみで仕上がることから、このような名前が付けられました。
地布とパーチメント(羊皮紙)を留め合わせた土台を使うことで、ステッチした後に、土台からモチーフを外すことが可能となったのです。

まず、下絵を描いたパーチメントをの地布と留め合わせて土台を作り、アウトラインをざっくりステッチします。それから、下絵に沿ってモチーフをステッチします。モチーフが完成したら、アウトラインの糸を切ってモチーフを土台から離します。糸のみで出来上がっているモチーフをつなげていけば、大きさも自由に作ることができます。

ちなみに、現代のレティセラの作り方が、この方法で紹介されていることが多いようですが、パーチメントを使う技法が取り入れられたのは、このプント・イン・アリアからのようです。

この画期的な技法の発明により、大きさだけでなく、模様もより複雑なものを描くことが可能となり、デザインも幾何学模様から動植物など多様な模様が展開されました。ここからニードル(ポイント)・レースには様ざまな技法が登場し、飛躍的に発展します。

次回は引き続き、このニードル(ポイント)・レースをご紹介していきたいと思います。お楽しみに。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。