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ファッション豆知識

レース(16)

日本の1月は多少地域の差はありますが、だいたい元旦から「大正月」を祝い、1月15日の「小正月」を経て、20日の「二十日正月」で正月の祝い納めをするのが慣わしで、下旬は特に大きな祭事はありませんが、キリスト教圏では、1月下旬から3月頃まで各地で「カーニヴァル(Carnival:英)が始まります。日本では「謝肉祭(しゃにくさい)」とも表されます。
イタリアのヴェネツィアで行われる「ヴェネツィア・カーニヴァル(Carnevale di Venezia:伊)」が有名ですね。美しく妖しい仮面が並ぶ写真を見たことがある人も多いかと思います。

この「ヴェネツィア・カーニヴァル」と、ブラジルのリオ・デ・ジャネイロで行われる「リオのカーニヴァル(Carnaval do Rio:葡)」、カリブ海のトリニダード・トバゴの「トリニダード・カーニヴァル(Trinidad Carnival:英)」は「世界三大カーニヴァル」と呼ばれ、毎年多くの観光客が訪れます。

大西洋にあるスペイン領カナリア諸島にある人気リゾート地、テネリフェ(Tenerife)島で行われる「サンタ・クルス・デ・テネリフェのカーニバル(Carnaval de Santa Cruz de Tenerife:西)」も有名なカーニヴァルのひとつで、1月下旬から1ヶ月近くの間様ざまな催しが行われるという、島の大きさから考えると大規模なものです。
実はこのテネリフェ島、レースの産地としてもその名が知られています。

テネリフェ島で生まれた「テネリフェ・レース(Tenerife lace:英)」は、観覧車のような円形のモチーフが並んだ素朴さの残るニードル(ポイント)・レースです。
もともとはカットワーク・レースを発展させた手法で、布地を切り込み、ステッチすることでモチーフを作り出すスタイルのレースでしたが、現在はピンを台紙やピローに刺して模様を描き、そのピンの間に糸を渡していくニードル・レースの手法で作られており、モチーフを別に作り、後からつなぎ合わせるパート・レースです。
放射状の円形のモチーフが蜘蛛の巣にも見えることから、1930年代から1940年代にかけては「ポルカ・スパイダー・ウェブ・レース(Polka spider web lace)」とも呼ばれていました。
また、カナリア諸島のランサローテ(Lanzarote)島のレースと合わせて「ロゼッタ・カナリア(Roseta canaria:西)」とも呼ばれています。

テネリフェ・レースのような太陽や車輪を表す円形モチーフのレースは、「太陽のレース」という意味を持つ「ソル・レース(Sol lace)」というスペインのレースの一種で、ソル・レースは「スペインの車輪」という意味の「スパニッシュ・ウィール(Spanish wheel:英)」などとも呼ばれています。
ソル・レースは、スペインの植民地化政策とともに16世紀頃に南米に伝えられ、今でもボリビア、ブラジル、ペルーではそのまま「ソル・レース」という名称が残っているそうです。
刺繍(12)」でご紹介したパラグアイの「ニャンドゥティ(Ñanduti)」は、このソル・レースを元に独自の手法で発展したものです。

20世紀後半にこのテネリフェ・レースの歴史や様式への関心が再び高まり、その歴史やパターンについて書かれた著作物がいくつか出版されました。機械製のケミカル・レースのモチーフにも、このテネリフェ・レースのモチーフが使われており、人気があるそうです。

テネリフ・レース【Teneriffe lace】

車輪型や円形模様のレース。アフリカ北西海岸沖のカナリア諸島のテネリフ島ではじめられたといわれるレースである。釘(ピン)に糸をわたして、その糸を土台に結んだり、かがったりして円形のモチーフをつくり、それらをつないでつくるレース。太陽の形をしていることから<サン・レース(sun lace)>ともよばれる。また南アメリカのパラグアイに伝えられ、そこでつくられるものは<パラグアイ・レース><ニャンドゥティ(土地のガラニヤ語で、蜘蛛(くも)の巣の意味>などといわれる。わが国においても、大正15年ごろ小田原方面で積極的に奨励され、多くの女子従業員によってさかんに生産され、輸出されたという。しかし一般的には一部の愛好家の間で行われたにすぎなかった。古くは教会の祭壇布や、ハンカチーフの飾りに用いられたが、近年はショール、テーブルクロス、ベビー服などにも広く用いられている。

前回、アプリケ手法を使ったキャリックマクロス・レースをご紹介しましたが、レースには、レース布をつなげて作るパッチワーク(Patchwork)手法のものもあります。

フランスのノルマンディー地方は、これまでご紹介してきたように、もともと「Point de fée(妖精のレース)」と呼ばれる繊細で美しいレースなどを生産してきた一大レース産業地ですが、この地の名が付いた「ノルマンディー・レース(Normandy lace)」は、様ざまなレースを美しく組み合わせたパッチワーク・レースです。

始まりは、一部分が傷んだり、手直しが必要になったレースのはぎれをパッチワークで繋げて、新たなレース製品に作り上げたものでした。そのため、使われているパーツの中には、非常に高価で美しいレースが散りばめられたものもあります。
美しい複数のレース技法が楽しめるノルマンディー・レースは次第に人気となり、傷んだレースのはぎれを使うのではなく、最初から製品として異なった種のレースをパッチワークして作られるようになり、1920年代に全盛期を迎えました。
今でも、アンティーク・レース愛好家に人気のレースのひとつです。

もうひとつ、工夫された技法のレースとしてご紹介したいのは、幅8-10mm程のテープ・レースを使って模様を描き、その間を様ざまなステッチでかがって1枚のレースに仕立てる「バッテンバーグ/バテンベルグ・テープ・レース(Battenberg tape lace)」というニードル・レースです。「テープ」が略されて「バッテンバーグ/バテンベルグ・レース」と呼ばれることが多いと思います。
16世紀に登場した「ルネサンス・レース(Renaissance lace)」のひとつですが、もともと、ブレイド(組ひも)を組み合わせて作られていたため「ブレイド・レース」とも呼ばれています(「ブレイド」については、「レース(9)」参照)。
テープ・レースを用いる事で、他のボビン・レースと比べ、早く量産することが出来ました。

「バッテンバーグ/バテンベルグ(Battenberg)」の名は、ドイツの町の名が由来で、そこが発祥である、という説もありますが、アメリカにおいては、20世紀初頭に、サラ・ハドリー(Sara Hadley)というレース職人が考案したテープ・レースを使った手法の新しいレースを指すようで、その時にイギリス女王ヴィクトリアとアルバート公の五女であり、ヘンリー・オブ・バッテンバーグ公子妃(Princess Henry of Battenberg)となったベアトリス王女(Princess Beatrice)にちなんで名付けられた、という説もあります。
バッテンバーグ・レースがとても流行ったため、アメリカではテープ・レース全般をこの名で呼ぶことが多いそうです。

バッテンバーグ ・レース【Battenberg lace】

ニードルポイント・レースの一種で、ルネッサンス・レースのややあらい型をいう。テープ、つまり<紐(ひも)>をいろいろな形に組合わせて模様をつくり、空間を千鳥かがり、柱かがり、ボタンホールかがりなどでかがったもので、ブレード(紐)・レースともいう。これは16世紀末にフランドル地方に高価な針レースの代用としてあらわれ、ルネッサンス時代にヨーロッパでさかんにつくられたもので、ルネッサンス・レースとよばれた最初のころは針レースの一種で、ひじょうに精巧なものであったが、時代がすすむにつれて、テープ類を使ってつくるようになり、最近ではほとんど機械づくりのテープを使用したりしてすっかり簡素化され、新しい要素が加わってきている。日本には明治末期から大正のはじめにかけて伝えられたといわれる。初期には、おもに教会のガウンやかけ布の装飾に用いられた。のち、テーブルクロス、ピアノかけ、ブラウス、またはハンカチーフの縁飾りなどに使用されている。

バッテンバーグ・レースが明治末期から大正時代初期にかけて日本へ伝わり、日本流に発展したのが「バテンレース」です。
新潟県上越市の工芸品として有名な「吉田バテンレース」は、1892年に、吉田虎八郎氏が地域の女性の内職として広めたことから始まったレースですが、初代からこれまでずっと機械化せず、すべて手作業で製造されているそうです。
当初は欧米諸国からブレイドを輸入して使用していましたが、やがて独自のテープ・レースを開発し、デザインも独自の発展をしていきました。
そのため商品は、アメリカやヨーロッパ諸国にも輸出するほど人気があるそう。
昭和時代にとても流行り、一般家庭のピアノカバーやテーブルクロス、日傘や洋服などでよく用いられたレースなので、見れば「あぁ、このレースのことか」とわかる人も多いかと思います。

テネリフェ・レースやバッテンバーグ・レースのように、ヨーロッパの町で生まれたレースが遠く離れた南米や日本に伝わり、独自のレースとして発展していき、その土地の文化になっていく様子がうかがえるレースは他にもたくさんあります。それだけレースは、世界中の人たちを惹きつける魅力のある工芸品だということなのでしょう。

次回も引き続き、魅力あふれるレースをご紹介したいと思います。お楽しみに。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。