ファッション豆知識

着物

あけましておめでとうございます。
今年もファッションへの興味が拡がるよう、皆さんに少しでも「へぇ」と思っていただけるような豆知識をお届けしたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

さて、お正月、成人式と1月は1年で最も着物姿を見る月ではないでしょうか。
とはいえども、一般的には年々和装をする人は減少しており、昭和時代のお正月には多く見かけた着物姿も、あまり見られなくなったように思います。反対に最近は、日本文化をリスペクトした外国人が、積極的に着物を着るようになったり、着物の価値が海外から再評価されてきています。

でも実は、そのずっと前から多くのハイセンスな海外セレブ達が、好んで着物をファッションとして取り入れてきたのはご存知でしょうか?昨年映画がヒットして話題のイギリスのロックバンド「クイーン」のヴォーカル、フレディ・マーキュリーも着物をガウンの様に着用したり、アレンジして舞台衣装などにも使用するほどの着物好きでした。その他にも多くの海外セレブ達に愛されてきた着物。着物の、特に欧米での独自の進化に関しては、後ほど「キモノ(Kimono)」のところでお話したいと思います。

話を日本に戻しましょう。もともと着物は日本人の一般服であり、それゆえに「着る物」、すなわち「着物」と呼ばれるようになった経緯があります。しかし幕末に洋服が伝来し、その普及とともに「着る物」の意味合いは薄れ、洋服との区別として「和服」を指すようになりました。

きもの着物

着るもののことで、衣服という意味にも用いられるが、通常洋服に対し、日本の衣服、つまり和服のことをいい、とくに和服の中でも長着をさすことが多い。着物は前で重ね合わせて帯でとめて着るワンピース形式の衣服で、洋服のようにボタンなどを用いず、人体の曲線を無視した直線裁ちの定形性衣服である。

その「和服」の中でも、「長着」といわれる裾まであるものを私たちは「着物」と呼んでいますが、その種類は、素材や模様、織りなどによって様々です。
そこで、皆さんに問題です。
下のA、B、Cに合っている説明を1、2、3から選んでみてください。

A 留袖(とめそで)
B 袷(あわせ)
C 付下げ(つけさげ)

1 裏をつけた着物のこと。裏なしの単衣(ひとえ)に対するもの
2 江戸褄(えどづま)ともいわれ、既婚女性の式服として着用される
3 手描染(てがきそめ)で、絵羽染(えばぞめ)にせず、反物のままで文様(もんよう)を肩山から前後にふりわけに下げて染めたもの。訪問着に準ずるものとされている

答えは、A=2、B=1、C=3でした。

自国古来の服だというのに、難しいですよね。聞いたことのない言葉もあったのではないでしょうか?
着物は定型性の衣服ゆえに形やデザイン上の違いが少なく、その他の素材や模様などの細かな部分の違いで名称が付けられるので、その分類はなかなか整然といかないようです。
基本的には、現在の「着物(長着)」は小袖(こそで)と呼ばれる下着が表着となり、時代により様々に変化したものです。「新・田中千代服飾事典」によると、【江戸時代の初期には、ついに小袖が今日の着物(長着)のもとになる形式をはっきりと完成している】そうです。しかし、こうした着物の種類別の名称は一般的にはあまり認識されず、「着物」と一括りに呼ばれることが多いと思います。

歴史的には、奈良朝から平安末期まで、男女の下着として用いられた小袖(こそで)が、鎌倉時代にいたり礼装の場合を除いては袴(はかま)や裳(も)が略され、表着として用いられるようになり、現在の着物(長着)にと変化したものである。着物は定形性の衣服であるから、形やデザインの上の変化は少なく、したがってその種類は、材料、模様、染色、織り、袖の長さなどによって特徴づけられる場合が多く、整然と分類することは困難である。

種類の分類も難しい着物ですが、その着用マナーも難しそうです。特に現代では、着物は儀礼用の礼装や正装として着用されることが多いため、これだけ多い種類の中からどれをどのように着たらよいのか、わからないことも多いでしょう。

ちなみに「礼装」と「正装」は同じものと混同されがちですが、「礼装」の方がより儀式を重んじたものです。また「晴れ着」は「正装」ではなく、同じ「せいそう」という読み方ですが「盛装」になりますから、特に儀礼や形式にとらわれず、着飾る必要のあるパーティーなどの場に着用されます。成人式でよく見られる<色振袖(いろふりそで)>は、「正装」としても着られますが、その華やかさから「晴れ着」の要素が強い着物です。

おしゃれ上級者は、成人式など式典以外でも着物を着る機会を増やしてみると、人々の注目を集めやすいでしょう。着物初心者はまず、浴衣などふだん着の簡単なものから挑戦してみるとよいと思います。

まず礼装としては、男子は黒羽二重(はぶたえ)五つ紋付の着物、女子は黒留袖、黒振袖の五つ紋付、または略礼装には訪問着などが、さらに夏季用としては絽縮緬(ろちりめん)、絽羽二重などの着物があげられる。正装としては、男子は礼装の場合と同じ、または無地のお召、紬(つむぎ)など。女子は<色振袖><色留袖><訪問着>などで、紋付か紋なし、夏季用としては、<絽(ろ)><紗(しゃ)>などがある。喪(も)服は黒羽二重あるいは縮緬(ちりめん)の五つ紋、三つ紋あるいは一つ紋付、外出着としては小紋、お召などのほかにやや趣味的なものとして、<紬(つむぎ)>や<上布(夏季用)>なども用いられる。

ふだん着には銘仙(めいせん)、ウール、縞、絣などが多く用いられ、男子のものとしては、<丹前(たんぜん)>がある。また夏季の代表的なふだん着としては男女とも用いる<浴衣(ゆかた)>がある。

着物を手に入れて、いざ着ようとしても、どうやって着たらわからないという人も多いのではないでしょうか。着つけも慣れないと難しいのが着物のハードルの高さ。身体の曲線に合わせて立体的に作られる洋服と違い、着物は直線に裁断された平面的な布の集合体。美しく着用するには、着用する技術も必要とされます。洋服が到来して以来、日本人の着物離れが加速したのも納得がいきますね。

和服は直線に裁断された平面的な布の集まりで、構造は開放的で、その形は曲線的な人体にそわせるようにはつくられておらず、からだに着せることにより、すなわち、着つけの技術のたくみさによって美しい姿をつくりだすものである。したがって洋服はからだに布をそわせるために布の不要な部分は裁断のさい削りとられるが、そうした不要な布も和服においては残されており、着つけの技術によって処理されている。

和装の美しさは<衿>のぬきかげん、前のあわせ方、帯のしめ方など、体型、丈、柄などに応じたさまざまの着つけによってつくられる一方、肩線などは自然の状態を生かし、衿あしなどもかなりあらわにみせ、また腰からすそにかけての線も、腰にそって布をまとった自然な感じに表現されるといった、ごくありのままの姿の美しさもみられる。あるいはまた、胴部の細い個所に幅の広い帯をしめて人体の自然な形を無視したり、袂(たもと)をつけるといった人工的な装飾もなされている。

最近はもっと手軽に着物を楽しんでもらおうと、数カ所を結ぶだけ、またはセパレート式のものなど、一人で簡単に着られて着くずれしにくい、様々な簡易着物が販売されています。帯結びもあらかじめ形ができていて、ワンタッチで着装できるものもあります。また、素材も絹など高級素材ではなく化繊のものも増え、自宅で洗えることを売りにしている着物も普及してきました。

日本人でも着るのが大変な着物。外国人にとっては、よりハードルが高いものでしょう。
冒頭で少し触れたように、特に欧米のセレブの間で人気の着物ですが、その人気の歴史は案外古いものでした。洋服が日本に入ってきたより以前の16世紀の時点で、和服はヨーロッパ人によって「Kimono(キモノ)」と呼ばれるようになっていたとのこと。今では全世界的に「Kimono」は和服を意味する言語として流布しています。

また、海外では「Kimono」は和服のことだけを意味するのではなく、着物のような前身頃を合わせたゆったりした服も意味するようになりました。「キモノ・スリーブ」や「キモノ・カラー」のように、着物から着想されたデザインが産み出され、「キモノ・ジャケット」「キモノ・ドレス」など新しい洋服も登場しました。2016年の春夏コレクションでは多くのハイブランドが、和服にインスパイアされた「ジャポニズム」ファッションを打ち出し、「キモノ・ガウン」がセレブの間で流行したのは記憶に新しいところです。

キモノKimono

日本の着物からきた語で、フランス語、英語では、おもに着物式に前身頃を合わせるゆったりした室内着のこと。また身頃から一続きになった袖のことを、マンシュ・キモノ(manche kimono フランス)、キモノ・スリーブ(kimono sleeve)という。

少しでもこうした知識を得ると、ちょっと着物を身近に感じ、愛着がわいてきませんか? ご紹介したような簡易着物や着物風にアレンジされた洋服もありますので、着物のおしゃれを楽しみたい人は、手軽なものから取り入れてみましょう。着物を着用する機会のある、お茶やお花など和の習い事を始めるのも、着物に馴染むよいきっかけだと思います。
また、着物の配色や柄はいまや世界でも高く評価され、グラフィックデザインにも多く取り入れられたりしています。洋服や雑貨、またはネイルなどの一部にそうした配色を使ったり、和柄をアクセントにしたおしゃれをするのも、個性やアイデンティティの表現になります。特に海外旅行に行く際は、ぜひ試してみてください。注目度が高まり、コミュニケーションのきっかけにもなりますよ。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。