ファッション豆知識

色(8)

さて、長く続いた「色」のお話もいよいよ最終回。
前回、色の名前が文化や時代によって様々なものがあることをお伝えしました。

シーズンごとに新しく登場する「流行色名」など、次々と新しい色名が生まれており、その数はもう数えられないくらいです。

色(1)」でも書いたように、「色」は「視覚」における美術的要素の大半を占めるだけに、配色はファッションの美をつくる重要なポイント(「新・田中千代服飾事典」より)です。特に流行のスタイルでは、「色」は大きな役割を担っています。

みなさんは毎年発表される「今年の流行色」って、聞いたことありませんか?
有名なところで、世界的な色見本帳ブランドであるPANTONE(パントーン)社が毎年12月に翌年のトレンドカラーを発表する「Color of the Year(カラー・オブ・ザ・イヤー)」があります。

2021年のトレンドカラーは「Ultimate Gray(アルティメットグレイ)」と明るい黄色の「Illuminating(イルミネイティング)」の2色が選ばれました。
この2色を選出したPANTONE Color Instituteのエグゼクティヴディレクターは選出理由をこのように語っています。
「永続的なUltimate Grayと明るいイエローのIlluminatingの組み合わせは、不屈の精神に支えられたポジティブなメッセージを表現しています。実用的でしっかりしていると同時に、暖かみがあり楽観的なこのカラーコンビネーションは、私たちに回復力と希望を与えてくれます。私たちは、励まされ、元気づけられる必要があり、これは人間の精神に不可欠なものです」

世界的なコロナ禍という背景のもと、人びとに「不屈」「回復」「明るさ」などのメッセージが色によって伝わるような気がします。

日本では日本流行色協会(JAFCA)がパントーン社と同じく毎年12月に、「今年の色、来年の色」を発表しています。
これは、国際流行色委員会が発表するインターカラーの情報をもとに、各業界の専門家たちで構成される委員会によって選定されたその年を象徴する「テーマカラー」のようなもので、「ファッション」や「経済」といった特定の分野に向けたものではなく、社会全体の動向を踏まえて選定されることが特徴なのだそう。
ファッション業界向けとしては、年に2回「JAFCAファッションカラー」というものを発表しています。

2021年の春夏ファッションのトレンドカラーは、「イエロー」「ホワイト」「グリーン」「ピンク」「ベージュ」「ブルー」だそうです。
確かに店頭に並ぶ洋服を見ると、このトレンドカラーが多く並んでいますよね。

特に今年の春夏は「透明感」を意味する「シアー」がトレンドなので、それぞれ「ペールイエロー」「ペールグリーン」「ペールピンク」といったように、淡い「ペール(トーン)カラー」で展開されています。ロマンティックな淡い光のような色合いでとても素敵な色です。

おしゃれ上級者はつい、敢えて流行を避けたくなるものですが、「新・田中千代服飾事典」によると、流行色も上手く採り入れながらも個性あるファッションを実現できることこそ、真のおしゃれ上級者のようですよ。
みなさんも、今年の流行色で自分らしいファッションスタイルを作って、シーズンを楽しんでくださいね。

いろ

<前略>

服飾の分野においては、色にも流行がみられるが、これも前述のように色を生かすという態度でとりあつかうべきである。ただつねに新鮮さということを忘れてはならないという服飾の性質上、むやみに流行色をさけることはかえって不自然なことで、無批判といわれない程度に進んで流行色をもとりいれることが望ましい。

<後略>

流行色も意識したいですが、やっぱりみなさん流行に関わらず好きな色ってありますよね。

「好みの色」は人それぞれですが、文化グループによってある一定の傾向はあるようです。
ある台湾の学者が英語文化圏と中国語文化圏で調査したところ、両文化圏で基本となっていたのは「青」と「緑」で共通なのだそうですが、暖色系の色では英語文化圏が「ピンク」であるのに対して、中国語文化圏では「赤」が基本となっていたそうです。
これはその文化の「言葉」が「色の使い方や好み」にも影響している例といえるそうで、「色(6)」で紹介した「言葉が色の認識に影響する」という「言語相対説」を裏付けるもののようです。

また、一般的には「青」は東洋、西洋ともに老若男女問わず好きな人が多い、という調査結果もあるようですが、みなさんの好きな色は何色でしょうか?
ずっと好きな色、最近好きになった色など、同じ人間でもその時の状況などで好きな色も変わります。
気がつくとつい、好きな色の服ばかり、買ってしまいませんか?

でも「好みの色」と「似合う色」は必ずしも一致しないものなのだそう。「新・田中千代服飾事典」によると、「似合う色を基調として、これに調和する他の色をとりいれていくことが好ましく、また安全でもある」というのが、コーディネートの秘けつのようです。ぜひ下に引用している事典のアドバイスも参考にしてみてくださいね。

また、コーディネートにおける配色はセンスの差が出やすいところ。スタイル全体としてまとまった美しさ出すには、単に選ぶ色の組み合わせを考えるだけでなく、それぞれの色の分量や配置も考えなくてはなりません。

その辺のセンスは、「生まれつきの感覚」というよりトレーニングを積むことで磨かれるのだそうです。普段からセンスの良い雑誌やウェブサイトなどのスタイルを見たり、ショーウインドウや店頭のコーディネートをチェックするのは、良いトレーニングになります。
洋服だけでなく、海外のインテリア雑誌なども素敵で、とても参考になりますよ。

いろ

<前略>

一方、色は感覚的なものであり、その配合や選択にはすぐれたセンス(感覚、感受性)が望まれる。つねに色に対して敏感であること、色による表現を数多くこころみること、色を感じとろうとする態度をもつことなどによって、色についてのセンスをみがくためのトレーニングをつむことが必要である。色にはまた人によって異なった好みというものがある。服装の色彩計画にあっては、その選択がたんにある色が美しいとか好ましいというだけの理由でなされることなく、それが服装にとりいれられ、身につけられたとき、まとまりとしての美しさを発揮しうるかどうかという考慮のうえに立ってなされるべきである。配色についても同様のことがいえる。色の組合わせは無数に考えられ、そのふんい気もさまざまであるが、身につける人の個性や特徴をじゅうぶん生かしうる配色が望ましいといえる。ある人にはよく似合う反対色どうしのコントラストが、別の人にははげしすぎて逆効果になるといったことは、しばしばありうることである。似合う色と好みの色とはかならずしも一致しないものである。服装計画にあっては似合う色を基調として、これに調和する他の色をとりいれていくことが好ましく、また安全でもある。服飾の分野においては、色にも流行がみられるが、これも前述のように色を生かすという態度でとりあつかうべきである。ただつねに新鮮さということを忘れてはならないという服飾の性質上、むやみに流行色をさけることはかえって不自然なことで、無批判といわれない程度に進んで流行色をもとりいれることが望ましい。服飾の色については、簡単なルールや習慣がある。儀礼の場合に用いられる白や黒、また海浜着やスポーツウェアなどに多くみられるはでな原色などはよく知られているところであるが、こうしたことをわきまえておくこともたいせつである。しかし一方では、従来夜の衣装にのみ用いられてきた金、銀などの光る素材が現今の宇宙時代にふさわしい素材としてさかんに用いられるようになったことなども、服飾の変遷のはげしさを物語るものとして注目される。

さあ、梅雨が明けたら、色鮮やかな夏の到来です。

「色名」は自然にあるものから名付けられているものが多いというお話もしましたが、少し立ち止まって意識して風景を眺めると、この世界が色であふれていることを再認識します。

特に熱帯のリゾート地には、自然のものとは思えないくらいの美しい色が、陸上だけでなく海の中にも広がっています。南の島に行く機会があったら、ぜひシュノーケルに挑戦してみて。テレビや写真で見る色鮮やかな光景をこの目で見ると、価値観が変わるほど本当に感動します。
そして、自然の美しさを知ると、「その自然を守ろう」という気持ちが芽生えたりします。

私たちも自然の色を模範に、色とりどりのおしゃれをしましょう。夏は大胆なくらいの配色にも挑戦しやすい季節。
流行色でまとめるのも良し、自分の好きな色にこだわるのも良し。

カラフルなおしゃれをした仲間とまた、早くカラフルで楽しい日々を過ごせるようになりますよう。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

写真はイメ―ジです。