ファッション豆知識

いつの間にか、梅雨入りしてしまいましたね。

「梅雨入り」と聞くとつい、鬱陶しい気分になる人も多いかと思いますが、こまめな手洗いが必要な今、雨がたくさん降り、水をふんだんに使える日本に住んでいることはとても幸運なことだと痛感します。まさに「恵(めぐみ)の雨」ですね。

以前、梅雨時のファッションとして「レインコート」についてお話ししましたが、今回は傘のお話です。

かさ

柄つきのかさの総称で、雨、雪、日光などを防ぐもの。かぶりがさ(笠)と区別して、<さしがさ>、あるいは<からかさ>などともいう。<雨がさ>と<日がさ>の別があり、前者には紙と竹でつくられた<番がさ><じゃの目>、布製のこうもりがさ(洋がさ)などが、後者には紙製の<絵日がさ>、布製の<パラソル>などがある。日がさは、おもに婦人が用いるが、婦人用にはこのほか晴雨兼用のかさもある。最近の洋がさには男女用とも携帯に便利な折りたたみ式のものがあり、またボタンを押して自動的に開く構造のものもある。材料としては、紙のほかに、綿、絹、化繊、また最近ではビニールなどが用いられている。<からかさ> の語源は、柄(え)をつけたかさであるという説、唐(中国)から渡ってきたものであるという説、また、ろくろざいくによって開閉ができるところから、からくり、すなわち機械によるかさであるという説などがある。中国では、古くから蓋(きぬがさ)が用いられたことがしられているが、西洋のかさは東洋からもたらされたもので、最初は王位などの位階をあらわす場合に用いられている。日本でも552年に百済(くだら)より<きぬがさ>が渡来して、上流階級の間では柄つきのかさが用いられていた。しかし現在のように開閉のできるかさについては、1594年ルソンからもたらされたものが最初といわれるが、すでにそれ以前に南シナからもたらされていたとも考えられる。かさが一般の間で用いられるようになったのは江戸時代以後のことで、当時のものは長柄であったが、元禄(げんろく)年間にはじめて柄の短い<じゃの目>があらわれ、丸い輪がへびの目のようであったことからこうよばれた。また延宝(えんぽう)、天和(てんな)ころにはさまざまな模様を描いた<絵日がさ>が、婦女子の間に流行している。 からかさのほかには、儀式用に用いられた<きぬがさ>、のちの<長柄がさ>や<日がさ>のもととなった<おおがさ>などがあった。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

傘は大きく分けると「雨傘(あまがさ)」と「日傘(ひがさ)」の2種類があります。

日本人は、雨傘はもちろんですが、日傘も愛用する人が多いですね。海外のリゾート地でも日傘を差しているのは、だいたい日本人だったりします。
主に日傘は女性が使用してきましたが、最近は熱中症や紫外線対策として日傘を差す「日傘男子」も増えているそうです。

「雨晴兼用」のものも多く見かけられますが、「雨傘」ベースにUVカットなどの機能を持たせた「雨晴兼用」と、「日傘」をベースに撥水加工などをして不意の雨でも使えるという程度の「晴雨兼用」のものがあり、後者は混同しないようにと「晴雨兼用パラソル」という表示がされているということなので、購入する際は少し注意してタグを確認してみてくださいね。

英語の「parasol」はラテン語の「para(〜から身を守る)」+「sol(太陽)」に由来しており、元々は「女性用の手持ち型の日傘」を指すようですが、私たち日本人が「パラソル」と言うと、ビーチやカフェなどで見られる固定型ものを指す場合が多いでしょう。

また、雨傘、日傘それぞれに布や紙、ビニールなど様々な材質のものがあります。

特に廉価な「ビニール傘」は広く普及していますが、ビニール傘は軽いだけでなく、前方が見やすく機能的でもあります。その消費量が世界一多い日本では、このビニール傘でさえも様々なデザインや機能が毎年開発されています。

デザイン性の高いビニール傘と言って思い出されるのは、少し前に話題になったイギリス女王エリザベス2世ご愛用の「FULTON(フルトン)」の「Birdcage(バードケージ)」のビニール傘でしょう。包みこむようにカーブが深いので濡れにくく、透明で見通しの良いこの傘は、実用的にも優れた傘と言えます。
しかし、これは欧米人、特にイギリス人にとっては、単なるファッション的話題にとどまりません。この後少しお話ししますが、欧米における「傘」は、「権威を示す高価な贅沢品」という歴史認識があるため、「雨具」として気軽に使う安価なビニール傘のような発想は、欧米人にはありませんでした。そのビニール傘をイギリス女王が使った、ということの意味は大きかったと思います。

さらに傘には「長傘」と「折り畳み傘」という形態があります。
折り畳み傘は1928年にドイツで発案された洋傘の進化形で、骨が竹でつくられる和傘には折り畳み式はありません。

というように、傘も様々な種類があるので、用途に合わせて数本持っている人が多いのではないでしょうか。

東洋の傘のルーツは、古代中国の魔除けなどの目的で貴人に差しかける「天蓋(てんがい)」だと言われています。「天蓋」というとお姫様の「天蓋付きベッド」を思い出しますね。
また仏具の、寺院などの天井にあるシャンデリアのようなものも「天蓋」と言いますが、元はインドの日除けの傘で、高貴な者を護るように従者が差すものでした。

その日傘が仏教の伝来とともに、インドから中国、そして百済を経由して日本に伝わりました。日本書紀にも、百済聖王(聖明王)から欽明天皇へ献上されたものの中に、仏像や経典とともに「蓋(きぬがさ)」があったと記されています。

古来日本語では「かさ」というと、頭に直接被る「笠」のことを意味し、「柄(え)」の付いた傘は「差し傘」と言われました。「差し傘」は「からかさ」とも呼ばれ、その由来は、「柄(え、から)」が付いた傘である、とか、日本に伝来した傘が当時の中国の「唐(とう)」のものだったから、または、開閉式の「からくり傘」から、など諸説ありますが、現在は「唐傘」と書かれることが多いようです。「唐傘」は「番傘」とも呼ばれ、「和傘」の総称としても使われます。

雨の多い日本では、傘は主に雨傘として発展します。
江戸時代には竹細工や製紙技術といった高い職人技を用いて、紙製で竹の骨、竹の柄の和傘が作られました。和傘は、竹と油を塗った和紙といった自然素材を用いているので壊れやすく、また洋傘に比べ非常に骨が多いため、重いのが難点です。洋傘の骨はだいたい8本ですが、和傘はなんと30〜70本の骨があるものがあるそうです。
そのため、昭和30年代には洋傘生産量が和傘を上回るようになり、以降和傘は、一般的にはほとんど見られなくなりました。
ただ、最近ファッションとして、この骨の多さが美しいと人気で、洋傘の素材で骨を多くした和洋折衷型の傘も出てきています。

ちなみに、日本で初めて洋傘を扱ったのは、江戸時代から続く人気の白粉(おしろい)「仙女香」の製造販売元である京橋区南伝馬町の坂本商店というところだそうです。明治維新をきっかけに洋傘の輸入販売を手がけ、自ら製造も始め、日本国内での洋傘の先駆者としてその普及に尽力したそうです。やがて明治後期には、日本製の洋傘は重要な輸出産品のひとつにまで成長しました。

西洋での傘の起源は古代文明まで遡ります。
エジプト、アッシリア、ペルシャ、ギリシャなどの古代の壁画に日傘が描かれていますが、そのほとんどがインドの天蓋と同様、国王や神官など高貴な者の頭上に従者が差している構図です。
その多くは美しい装飾が施され、エジプト壁画ではヤシの葉や羽毛のようなものを束ねた傘が描かれています。ちなみに、この頃のものはまだ開閉式ではありません。

古代ギリシャでも、祭礼時に神の威光を表すものとして神像の上にかざしていたように、傘は日除けという機能だけでなく、神や権力者の威光を示すものでした。化粧ハンカチーフなどの歴史と似ていますね。

傘が一般的に使われ出したのは古代ギリシャ時代で、主に貴婦人たちがよく使用しました。この頃には、すでに開閉式のものが登場していたようです。

西洋における傘の伝播と発展は、とてもハンカチーフと似ています。
傘も永らく上流階級の贅沢品であり、富と権力の象徴ゆえにどんどん華美になり、遺産として傘を誰が継ぐのかを遺言書にしたためるほど高価なものもあったそうです。

今日のような開閉式の日傘は、13世紀頃のイタリアで作られたと言われていますが、それをフランスにもたらしたのは、ハンカチーフと同じく、フランスのアンリ2世に嫁いだメディチ家のファッショニスタ、カトリーヌ・ド・メディチだったようです。その他スペインやポルトガルなどにも広がり、17世紀頃には一般の人たちの間にも広がりました。

雨が多い(イメージの)イギリスでも、傘は始め日傘として使われていたそうです。
その後雨除けとして使われるようになっても、雨傘は女性が使うものでした。男性が傘を使わなくなったのは古代ギリシャでしたが、その古代ギリシャの思想を受け継ぐ「騎士道」の精神がイギリス男性の間に残っていたからでしょうか、男性が雨傘を使うのは「ペチコートを履くようなものだ」と言われるくらい男らしくない行為とされ、男性は皆、帽子などで雨をしのいでいたそうです。
今でも雨の中傘を差さない欧米男性が多いのは、「欧米人は体温が高く雨に鈍感だから」という人もいますが、思想史的な背景もあるかもしれませんね。
しかし、その認識をあらためたのは、Jonas Hanway(ジョナス・ハンウェイ)というひとりの貿易商でした。彼は世界中を旅する旅行家でもあり、その旅先で老若男女問わず雨傘を指す異国の人々を見て、この習慣を広めようとロンドンの街を雨傘を差して歩いたそうです。初めは嘲笑されましたが、雨傘を手に約30年間歩いているうちに、イギリス男性たちにも次第に雨傘が使われるようになったそうです。その信念が、すごいですよね。

最後にご紹介したいのは、傘が最もインスタ映えする「アンブレラ・スカイ・プロジェクト」。
このプロジェクトは、ポルトガル中部「アゲダ(Agueda)」という街で2012年に始まり、毎年7月に行われている芸術祭の一環のイベントで、夏の日差し対策をアートにすべく、カラフルな傘で商店街の空が敷き詰められます。その光景は圧巻!
以前「ストライプ」の回でご紹介したストライプの家が並ぶ可愛い街「コスタ・ノヴァ(Costa nova)」はこの「アゲダ」の街のほど近くにあります。いつかこの辺を旅してみたいものです。

ポルトガル以外にも、スペイン、フランス、バーレーンなど他国にもプロジェクトが広がっているので、旅先で偶然に遭遇することもあるかもしれませんね。

そして日本でも、最近は夏のイベントとして行っているところが増えています。
ぜひ「アンブレラスカイ」で検索して調べて、その美しい傘の光景を見に行ってみてくださいね。

「アンブレラスカイ」のように多くの傘でなくても、1本の素敵な傘も人の心を動かします。
ハンウェイのように30年も差し続けなくても、通り過ぎる一瞬で人の心を動かすこともあるのです。
あなたの素敵な傘が、通り過ぎる誰かの心に小さなファッションの灯を点けるかもしれません。
そう、それはまるで、傘を差して空から舞い降りてくる魔法使い「メリー・ポピンズ」が、人々の心に「愛」という灯を点けていったように。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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