ファッション豆知識

手袋(3)

もうすぐクリスマス。
一段と寒さが厳しくなってきました。

あたたかな防寒アイテムとしての「手袋」は、想像以上に多くの用途と歴史があることがわかってきましたね。
(初めてこのコラムを読む方はぜひ「手袋(1)」「手袋(2)」もご一読ください)

最後は、「装飾品」「ファッション」としての「手袋」に注目してみたいと思います。

現存する最古の手袋が、エジプトのツタンカーメン王の墓から発見されたもので、戦車の馬の手綱を引く際に使われていたようだ、というお話を前回しました。その頃の手袋は貴重品のため、高貴な者だけが着用できることから、「権威・権力」や「宗教的な意味合い」を象徴するようになっていました。

手袋が王族や貴族などの特権階級の貴人に好まれたのは、単に「貴重品」である手袋を所持することによって「権威を表す」というだけではなく、そもそも手袋をすること自体で手荒れや日焼けなどを防ぎ、「労働をしていない特権階級である」ということを表していたからです。
労働者と区別をつけるため、男性も手の肌の白さ、柔らかさなど美しさに加え、手の小ささも誇りとされていたそう。例えばフランス皇帝のナポレオン1世の手は非常に小さかったため、部下が彼の手袋をはめようとしても入らなかったというのが、ナポレオンの自慢であったという逸話もあるとか。

それゆえ、手袋は「王や皇帝の徽章の一部」と考えられるようになりました。
手袋は、より強大な権威を表そうと次第に装飾性が増し、刺繍や高価な宝石などが施されていきました。
1189年に没したヘンリー2世の墓には、戴冠式のときに着用したローブと王冠とともに手袋も埋められていたと記録されています。他の王の墓でも手袋は大事な「王の印」として、一緒に埋葬されていることが確認されています。

14世紀には騎士たちの間でも、革の手袋を「紋章」の代わりとして用いる習慣があったようです。
それだけ手袋は、貴人たちにとって重要なアイテムだったことがわかりますね。

手袋は、もともと「手の保護」や「防汚」など実用的な目的で登場したものですから、専ら屋外で狩りなどを行う男性が着用するものでした。

女性が手袋をするようになったのは11世紀頃になってから、と言われていますが、それは権威を表す目的で着用していた王族の中において、男性だけでなく女性も着用するようになったのだと思われます。

女性が着用し始めたことで、手袋は「ファッション」としての発展を加速させていきます。12世紀には専門の手袋職人が登場し、13世紀頃には、それまでの革製だけでなく、絹や麻製のものも登場しました。当時は肘まである長いオペラグローブ以外に4本の指先のないハーフミトン型のものが多かったようです。

手袋の着用が記録された最初の女性は、16世紀のイギリス女王、エリザベス1世だと言われています。
1559年に戴冠式に臨んだエリザベス1世の手袋は、銀のタッセル(ふさ飾り)が付いた白のスウェード革製のものだったそうです。
ちなみにその後の1953年のエリザベス2世の戴冠式の手袋は、同じ白の革手袋でもより凝った作りになっており、金糸で女王のイニシャル「ER Ⅱ」の縫い取りが施されました。
エリザベス1世は自慢の白く美しい手に手袋をはめており、来客などの際に、客前で手袋をはずす様子が非常にエレガントで、男性を魅了したという逸話があるそうです。

エリザベス1世の他にもうひとり、手袋のファッション性を高めた人物がいます。
そう、このファッションコラムにも何度も登場しているルネサンス期のファッショニスタ、ヴェネツィアの権力者であるメディチ家のカトリーヌ・ド・メディチです。(彼女については「ハンカチーフ」の回も参照くださいね)

彼女がアンリ2世との結婚を機にフランスに渡った際に、新しいファッションスタイルとしてハンカチーフ香水などをフランスに持ち込み、やがてヨーロッパ中の貴婦人の間で流行になったように、手袋もこの頃流行を極めたと言われています。
ハンカチーフボタンと同様、フランスの職人たちの技術が手袋の装飾性を発展させ、多くの王族、貴族たちが贅を競い合うように手袋を宝石や金銀のタッセル飾り、刺繍、レースなどで飾り、手袋はどんどん豪華な装飾品になっていきました。

現存する1690年代のメアリー2世の彫刻で、彼女が着用していたのはオペラグローブだったことが確認されていますが、17世紀以降、ヨーロッパの貴婦人たちがよく着用していたのは、肘に届く長さのオペラグローブでした。18世紀には肘より上の長さのものが流行しました。
19世紀に入っても「貴婦人の象徴」とされ、「シンデレラ」などで見られるように、多くの架空の物語の中でも「プリンセス」たちは、ドレスの一部としてオペラグローブを着用した姿で描かれています。

オペラグローブは、現代においても女性の「品格」を表すファッション・ファクターとして、オートクチュールに限らず、現代的なモード系ファッションでも使われます。
特に「品格」や「清楚さ」、「エレガンス」などを求められるウェディングドレスにおいては、ウェディンググローブと呼ばれるオペラグローブが使われ、最近では中指に引っ掛けるフィンガーレスタイプも人気なのだそうです。

てぶくろ手袋

<歴史>

すでに旧約聖書の中でヤコブに革手袋をつくってあげたという話があらわれており、古代ギリシア、ローマでも用いられていた。6世紀ごろから男性の間に普及し、11世紀になって婦人が用いるようになったが、当時のものは絹、革製で、 刺繍(ししゅう)、宝石の飾りがあり高価なものとされた。12世紀ヘンリー2 世の戴冠(たいかん)式には、彼が宝石で飾られた手袋をはめていたという記録がある。12世紀に手袋をつくる専門の職人があらわれ、13世紀には男女ともに欠かせないものになった。 当時のものは4本の指先のないハーフ・ミトン型のものが多かったようである。また、カフスの長いロング・グラブもあった。14世紀には騎士が紋章のかわりに革の手袋を用いた。16世紀にはエリザベス1世が、自慢の美しい手に手袋をはめ、来客などがあるとそれを脱がれる様子がひじょうにエレガントで、男性を魅了したという逸話がある。手袋についての逸話は多く、男性に関しても、たとえばナポレオンの手はひじょうに小さかったため部下が彼の手袋をはめようとしてもはいらなかったというのが、将軍の自慢であったといわれる。当時は労働者と区別をつけるため、男性も手の小さいことを誇りとしていたためである。また手袋を婦人が男性に贈ることは愛のしるしといわれ、王が手袋を人にあたえたときには権利をゆずるしるしとなり、裁判官が犯人に手袋を投げつけると罪を認められるといった、手袋に関する風習は数多くあり、手袋の存在がいかにたいせつであったかを物語っている。16世紀から17世紀にかけては手袋の最盛期ともいわれ、材料にもこり、牛の腹子で伸び縮みのよいやわらかい手袋をつくったり、カフスを折返し、美しい刺繍やフリンジ、宝石などで飾ったものが用いられた。18世紀になると男子は袖口にフリルがつくようになり、手袋はすたれ、反対に婦人は袖が短くなったので、より多く用いるようになった。19世紀にも女性の間ではさまざまな色や丈の手袋が使われ、社交界、つまり正式な場ではかならず手袋を必要とすることとなり、今日の手袋に対するエチケットが確立された。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

ドレスを着用しなくなった現代では、手袋は「ファッション」としてというより「防寒」で使われることの方が多くなりましたが、1960年代くらいまではファッションとして手袋はマストアイテムでした。

1910年代から1960年代の間は、女性の服がドレスからワンピースに変わっても、手袋は女性のエレガンスを表すアイテムとして、そのまま引き継がれました。
1920年代流行のフラッパー・スタイルも、1930年代のレトロなロングワンピースやキャリア・ウーマンを象徴するシャネル・スーツにも手袋は欠かせません。戦時中の機能的なスーツ・スタイルにも、戦後の華やかなミニ丈のワンピースにも手袋がはめられました。
1960年代のミューズ、オードリー・ヘップバーンの有名なブラックドレスとオペラグローブを前回ご紹介しましたが、昔のファッションは髪型なども含め、映画女優のスタイルが流行の発信源でした。

1970代に入ると、ヒッピーブームに見られるように、デニムなどのカジュアルが流行ります。ここで手袋は一気にファッションの表舞台から消えてしまいます。

この1900年代のファッションの変遷は、「Glam」というアメリカの女性向けライフスタイルWEBマガジンの企画動画が、手袋のスタイルイメージもわかりやすく、なかなか面白いです。ご興味ある人はぜひ見てみてくださいね。

「100 Years of Fashion: Women ★ Glam.com」

https://youtu.be/M4z90wlwYs8

さて、これまで西欧の手袋についてお話してきましたが、日本では、平安時代後期(12世紀)や南北朝時代(14世紀)の絵巻物に、手袋をはめている人物が描かれているそうです。

民具としての手袋は、藁(わら)でできたミトン型の「藁(わら)手袋」と布製の「布手袋」があり、民俗学の分野では、布製も「ワラテ」と呼ぶことから、布製は藁製より後に作られるようになったと考えられています。

鎌倉時代には、前回お話したヨーロッパの騎士の「ガントレット」に相当する
「篭手(こて)」が、武士の武具として使われていました。当時は手覆(ておおい)とも呼ばれていました。

革手袋については、元禄時代(1700年頃)に赤穂浪士・大石主税(大石内蔵之助の長男)が使っていた革手袋が、赤穂浪士の墓所がある泉岳寺に残されているそうで、現在確認されているものとしては、これが現存する一番古い手袋なのだそう。

その後、オランダなどの欧米からメリヤスの手袋が入ってきて、それが武士の間に広まり、幕末には手袋づくりが貧乏武士の内職として広く広まったそうです。

そして現在、なんと日本製の手袋の約90%が、香川県の東かがわ市周辺で作られており、約130年の歴史があるのだそう。
温暖な香川県が手袋の一大産地とは少し意外な気もしますが、その確かな伝統の技術と実績で、今では世界中からの信頼を集めています。

神事でも、神社で神職が御霊代奉戴などを行う時、手が触れないように専用の手袋を用いるそうです。白布製のミトン型のもので、手元の紐で手首をくくって装着します。

日本の皇族や貴族などの貴人たちは、西欧のドレス文化のひとつとして、「礼装」の白い手袋やオペラグローブを着用しました。女性は宮中での「最上級礼装」として、ローブ・デコルテと併せてオペラグローブ、ティアラ(小さな王冠)を付けるのが基本とされています。宮中行事の多いこの数年は、テレビなどでもこの姿の皇族を目にすることが多いのではないでしょうか。

様々な用途を持つ手袋。
そして、様々な素材、デザインが展開されている手袋。

あなたのお気に入りの手袋は、どんなタイプの手袋でしょう?
年末年始のおめかしには、レースの手袋も素敵ですね。
筆者は革の手袋を愛用してきましたが、この冬は「かあさんの歌」に歌われているような手編みの毛糸のほっこりした手袋が気になっています。

手袋はマフラーとセットで揃えたり、バッグなど小物と色を合わせたりするだけでも、オシャレ度がグッと上がります。今年はマスクまで合わせる強者も出てくるかも?!

外出の機会が減ってしまいそうな今年の冬は、手袋はあまり活躍しないでしょうか。いえいえ、家でも手袋は活躍します。
手洗いやアルコール消毒による手荒れ予防に、ハンドクリームを塗った手にはめて寝るのも良し、ウォッシンググローブで身体もきれいに洗えます。

その他にも新しい手袋の使い方、アイディアがわいたら、ぜひ教えてくださいね。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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