ファッション豆知識

下駄(1)

毎年8月は、花火や夏祭りで浴衣姿を多く見かける月ですが、今年は残念ながら多くの人が集まるイベントは各地で中止になっています。浴衣姿を見かけることも少なくなってしまうかと思うと、少し寂しいですね。

でも、浴衣は日本の夏にぴったりの快適なおしゃれ着。
特にイベントがなくても、今年は普段のお出かけの際に、爽やかな浴衣のおしゃれを取り入れてみてはいかがでしょう。最近は化学繊維のものなど扱いやすいものも多く、しかも様々なデザインのものが出回っています(「浴衣」の回参照)から、気軽にチャレンジできて、コーディネートも幅広く楽しめると思います。

そして浴衣を着たら、足元はやっぱり靴ではなく下駄(げた)を履きたいものですね。

げた下駄

足をのせる木製の台に歯をつくり、三つ穴をあけ鼻緒(はなお)をつけたはきもの。 靴と異なり解放的なはき物である。下駄は日本固有のはき物とする説が多い。<駄>にははき物の意味があり、<下>にはくところから<下駄(げた)>の名称があるとおもわれる。古墳時代から現在とほとんど変わらぬものが用いられ、弥生(やよい)時代には<田下駄>とよばれるものが使われ、平安・鎌倉時代には<歯下駄>とよばれる長円形の台に高歯をさしたものがあった。下駄が日常的なものになったのは江戸時代からで、用途によって種類も多い。下駄には歯を台にさしたものと1枚の木をくりぬいて歯をつくったものとがあり、前者を<差歯下駄(さしげた)>、後者を<連歯下駄(れんしげた)>とよぶ。歯のくりぬき方にもいろいろあり、ぽっくりのように前歯を傾斜させたのめり型のもの、後ろ歯が台の後ろから続いた後丸を利用したものなどがある。差歯の代表的なものに<足駄(あしだ)>があり、これは<足下>あるいは<足板>などの意味からきたものといわれる。歯が高いので<高下駄>ともよばれる。現在はビニールやレザーのつま掛をつけて、おもに雨天用としてはかれる。またこの歯の低いものは晴雨兼用になり<日和(ひより)下駄>といわれる。とくに表つきの台がついたものが<吾妻(あづま)下駄>で<朱塗り下駄><吉原下駄><羽根虫>などとともに幕末ごろより用いられた。歯のない下駄の代表的なものが<ぽっくり>で、江戸時代には<こっぽり>といわれて、吉原遊郭の禿(かむろ)たちが用いたが、現在は子どもが晴れ着を着用したときなどに用いる。通常下駄の歯は2枚とされているが、特殊なものとしては一本歯の<雪下駄>、三枚歯の<おいらん下駄>などがある。また普通垂直に歯がつけられるが、下広がりについたものに<銀杏歯(いちょうば)>とよばれるものがある。用材は桐(きり)が最も上等で、ひのき、杉などが使われる。竹なども趣味的なものとして季節や着物、帯とあわせて用いられる。そのほか特殊なものに、<ほうのき>で厚くつくった<朴歯(ほうば)>、山村の子どもが用いる<竹下駄>、漁夫の用いる<浜下駄>、湿田作業に用いる<田下駄><雪下駄><すべり下駄>などがある。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

下駄(げた)は、足を載せる木板の「台」に「歯」と呼ばれる接地用の突起部を付けて、足の親指と人差し指の間に挟む「鼻緒」を、本体に開けた3つの穴に通した履物です。
この穴を「眼」と呼ぶこともあるようで、「歯」や「鼻」、「眼」という呼称から、人の顔に例えられていることがわかります。面白いですね。

構造的には木材の一塊から台と歯を作る「連歯(れんし)下駄」(俗称くりぬき)と、別に作った歯を台に取り付ける「差歯(さし)下駄」があります。

差歯下駄の場合、歯は硬くて磨耗に強い樫(かし)や欅(けやき)、朴(ほお)などが素材として使われました。
需要が多い時代には、磨耗した歯を入れ替える商売も存在したそうです。

台の木材は主に桐や杉が使われますが、ムレにくく肌触りが良いだけでなく抗菌効果もあるので、高温多湿の日本の夏の履物の素材として好んで用いられたと思われます。
また、台の素材に白木を使用する場合は、木目が美しいものほど「高級」とされています。「会津桐」などは代表的な高級木材として知られ、人気です。
その他艶やかな塗りのものや、焼いて木目を際立たせたもの(焼き木目)、鎌倉彫などの彫りの装飾を施したものなど、台だけでも様々な種類があります。
変わったところで、鉄でできた「鉄下駄」なんてものもあるそうですが、もちろん履物ではなく身体を鍛えるための道具のようです。

鼻緒は下駄の重要な機能部位です。
鼻緒が切れると下駄は履けなくなりますし、何より履いている時に鼻緒が切れて転ぶと危険ですよね。それゆえ鼻緒が丈夫であることは大変重要です。「鼻緒が切れるのは縁起が悪い」という迷信がありますが、そのくらい鼻緒がしっかりしていることを履く前に留意するためではないかと思えます。

色とりどりの布柄が美しい鼻緒の素材は、布だと思われていることが多いかもしれませんが、実は布に覆われている下の素材は丈夫なものが使われています。古くは麻、棕櫚(しゅろ=ヤシ科の樹木)、稲藁(いなわら)、竹の皮、蔓(つる)、革などが用いられていました。

そして、色柄豊富な鼻緒は下駄の最大のファッション要素でもあります。
花柄、縞柄、幾何学柄などから、今では洋風な柄などもあります。鼻緒の柄が華やかであることから、「花緒」とも書くそうですよ。
実際、鼻緒で下駄を選ぶ人も多いのではないでしょうか。
巻かれている布の種類も多数あり、肌触りの良いビロードなど起毛のものも好まれているようです。その他高級感のある革製のものもあります。
また、鼻緒は太さの違いで雰囲気も変わりますよね。

つまり下駄は「台」と「鼻緒」の組み合わせのバリエーションは無限大になるため、靴にも劣らない足元のおしゃれアイテムなのです。

さらに、健康促進の目的で普段から下駄を履く人も少なくないそうです。足元の安定は身体全体の調子を左右するため、案外重要なのです。

最近では鼻緒付きの履物が「足の鍛練に効果がある」ということから、子供に下駄や草履を履かせる「足育」も注目されています。鼻緒を挟み、台をつかむように足指で踏ん張るため、筋肉が鍛えられて足裏の「土踏まず」を形成し「扁平足」の予防になります。
また、「外反母趾」の予防にも効果があると言われています。
足腰が疲れやすい人や健康に気をつけたい人は、ちょっと下駄に注目ですね。

ちなみに平安末期、あの牛若丸が弁慶と五条の大橋で渡り合った際に履いていたとされるのは、一本歯の下駄だったと言われていますが、一本歯の下駄は険しい山道用に履かれていたもので、修験者(山伏)や天狗が履いている様子が古文献にも描かれています。
一本歯の下駄は身体のバランス感覚を高める効果もあるので、今でも古武術のトレーニングに使われたり、健康のために履いたりする人もいます。

さらに一本歯よりもっと不安定な、歯が半球型の「玉下駄(蓬莱下駄)」という下駄を履いた健康法もあるそうです。

高温多湿の夏の足元を爽やかにし、おしゃれで健康にも良い下駄。
少しは下駄の良さを知り、身近に感じてもらえたでしょうか?
次回は、数多ある下駄の種類とその歴史についてお話ししてみたいと思います。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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