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ファッション豆知識

ダウン(3)

さて、ダウンのお話も今回で最後。
ダウン(1)」「ダウン(2)」を読んでくれた方は、もうかなりダウンファッションについて語れるのではないでしょうか。
締めくくりは、「エシカルファッション(Ethical fashion)」の観点からダウンについてお話ししたいと思います。

まず、みなさんは「エシカルファッション」という言葉はご存知でしたか?
「エシカル(Ethical)」は「倫理的な」という意味ですが、ここでいう「倫理的」とは「地球環境と人に配慮した」ということを意味しています。素材の選定、生産、販売までのプロセスで、「環境にやさしい素材を使う」「不当な労働搾取をしない」といったような良識的な基準で作られたファッションを「エシカルファッション」と呼び、近年その動きは拡大し、いまやファッション業界のトレンド・キーワードとなっています。

具体的には、

・フェアトレード Fairtrade
 対等なパートナーシップに基づいた取引で、不当な労動と搾取をなくす
・オーガニック Organic
 有機栽培で生産された素材を使っている
・サーキュラー・エコノミー Circular Economy
 循環サイクルを意識したものづくり
・アップサイクル&リクレイム Upcycle & Reclaim
 アップサイクル=捨てられるはずだったもの材料にし、よりよいものを作る 
 リクレイム=デッドストックとなった素材や商品などを回収し利用する
・サステナブル・マテリアル Sustainable material
 環境負荷がより低い素材を使用する
・ウェイストレス Wasteless
 廃棄物、無駄を軽減する
・クラフトマンシップ Craftsmanship
 伝統的な技術を取り入れる
・アニマル・ウェルフェア Animal Welfare
 動物の権利や福祉に配慮している
・ソーシャル・プロジェクト Social project
 社会的な活動と関わる

などといったことが提唱されています。

この「エシカルファッション」という概念が生まれた背景には、コストを抑えたファストファッションの台頭があります。
低価格を実現するためにコスト重視で、地球環境や人権に配慮しないファストファッションのビジネスが、特に欧米で問題視され始めました。

2013年にバングラデシュで起きた1100人以上の犠牲者を出した「ラナ・プラザ崩落事故」を覚えていますか?
崩落したビルには、複数のファストファッションブランドの縫製工場が入っており、犠牲者の多くはこうした縫製工場で安い賃金で働いていた若い女性でした。
この悲しい事故は、それまで警鐘を鳴らしてきた人権団体や環境団体だけでなく、一般消費者にもエシカルファッションの必要性を感じさせたのです。
今ではファストファッションから高級ブランドまで、多くのファッションブランドがエシカルファッションに取り組むようになりました。

また最近「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」という言葉をよく耳にしませんか?これは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略で、2015年の国連サミットで採択された、2030年までに持続可能でより良い世界を目指す国際目標です。17のゴール、169のターゲットから構成されており、エシカルファッションはこの「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」に沿った世界的な動きとも言えます。
期限となる2030年まで10年をきった今、目標を達成していく動きは、さらに活性化していくでしょう。

エシカルファッションの基準の中に、動物への虐待行為を避ける「アニマル・ウェルフェア」の基準があります。
以前「毛皮」の回でもお話ししましたが、多くのファッションブランドが現在、「アニマルフリー(動物性のものを使用しない)」「動物実験をしない」という方向に進んでいます。

ダウンは、その採取方法において、この「アニマル・ウェルフェア」の基準に抵触してしまう場合があります。

ダウン(とフェザー)の採取方法には、主に下記の3種類の方法があります。

・マシーン・プラッキング(ピッキング)Machine Plucking
(食用の屠殺後の水鳥から機械で採取する)
・ハンド・プラッキング(ピッキング)Hand Plucking
(食用の屠殺後の水鳥から手でむしり取る)
・ライブ・ハンド・プラッキング(ピッキング)Live Hand Plucking
(生きた水鳥から手でむしり取る)

「むしり取る」という言葉を聞くだけも痛々しいですね。

そもそも動物愛護などの立場の人たちからすれば、水鳥の生死に関係なく、動物を食したり、傷つけたりすることは「非倫理的」なので、「アイダーダウン」のように落ちているダウンを拾集するしかありません。または生きている水鳥から採取する場合でも、充分に成長して皮膚から離れやすくなったダウンを採取する「ハーヴェスティング(Harvesting)」であれば、抜いても血が出たりせず「倫理的」と言えるでしょう。
しかし、それでは需要と供給が圧倒的に追いつかなく、ダウンの価格はもっと高価になり、ごく少数の貴人たちだけのものになってしまいます。

水鳥の食用がある現実を考え、現在一般的には、生きた水鳥から採取する
「ライブ・ハンド・プラッキング」のみが問題視されています。

水鳥を飼育する農場では、水鳥が生まれると、生後12週目あたりで初めて採取した後、以後6、7週ごとに何回も採取しますが(3回目に採取したダウンが良質と言われています)、ダウンが成長するのを待たずにむしり取るので、皮膚が傷つき血が出たりします。
インターネットでもショッキングなプラッキングの動画が多く公開されていて、悲痛な水鳥の姿に多くの人が心を痛めています。

しかし近年ダウンの需要は右肩上がり。成長を待っていられません。
多くのダウンを採取するために、強制的に早く成長する餌を多く与える「強制給餌」が行われている場合もあります。「強制給餌」は食肉用の家畜でも問題視されていますね。
食肉の場合と同様、こうした無理な成長を強制された水鳥のダウンは、品質が劣るそうです。

「アニマル・ウェルフェア」の観点から、ダウンが問題視されるのは毛皮と同様で、各地で抗議デモも行われています。

動物愛護の運動が早くから盛んだったイギリスをはじめとして、EU諸国では現在ライブ・ハンド・プラッキングは禁止されています。にも関わらず、生きた鳥から採取したダウンの方が品質が良いので、まだまだライブ・ハンド・プラッキングが行われている生産農場も多いのが現状です。

しかし年々高まる消費者の倫理的な声に応えて、ファッション界では次々とエシカルな素材を使用するブランドが増えています。
エシカルなポリシーを持つ「パタゴニア(Patagonia)」は、2014年秋シーズン以降、強制給餌やライブ・ハンド・プラッキングで採取されたダウンではないことが追跡可能である「トレーサブル・ダウン」のみを使用することを宣言しています。
「モンクレール(Moncler)」のような高級ブランドはもちろんのこと、ダウンの老舗の「エディー・バウアー(Eddie Bauer)」や「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」もライブ・ハンド・プラッキングで採取されたダウンではないと公言していますし、「カナダグース(Canada Goose )」も動物愛護団体に糾弾された際に、強制給餌やライブ・ハンド・プラッキングで採取されたダウンではない、と表明しています。(毛皮は2022年からリサイクル利用にすると明言)
また、ファストファッションでもH&Mやユニクロなどが、ライブ・ハンド・プラッキングで採取されたダウンではない、と発表しています。

前回、高品質を保証するDIST(Down Integrity System and Traceability)という基準があり、「モンクレール」のダウンはその認証を受けたもの、と書きましたが、動物愛護にも配慮したダウンの国際調達基準「RDS(Responsible Down Standard)」が2014年に誕生し、徐々にこの認証を受けたダウンを使用するブランドが増えています。

もともと稀少なダウンなのに、さらに採取に制限がかかったことによって供給量が減少するのとは反対に、ダウンの需要は増えるばかり。
そこで今注目されているのが、ダウンの「リサイクル」です。

多くのダウン製品が普及すると、廃棄される量も増えます。
現在日本の衣料品の廃棄量は、年間100万トン(約30億着分)と言われており、そのうち約20%弱くらいしか、リサイクルされていないそうです。そのうちの数%がダウンだとしても、その稀少性や採取のことを考えると、実にもったいない事態ですね。
また日本では、羽毛布団の廃棄量も軽視できません。2018年度に粗大ゴミとして処理された布団は、東京23区内だけでも、なんと92万6593枚!普及率から考えるに、羽毛布団も相当の量であったと推測できます。
そして、廃棄された羽毛布団やダウンウェアなどの多くは、現在焼却処分されているのです。

この「衣料品ロス」は世界中で問題となっており、動物愛護と同様に、世界が「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」に向けて動いている中、さらにその取り組みが進んでいます。
この中綿のダウンだけ取り出してリサイクルできれば、非常にエシカルですよね。

ダウンをリサイクルするにはまず、古くなったダウン製品を回収し、裁断し、生地とダウンを分けますが、この生地からダウンを取り出す作業がなかなか面倒です。従来は人の手でひとつひとつ行ってきましたが、最近は風を利用した新技術が次々と開発され、その技術開発が、「リサイクル・ダウン」をビジネスとして成り立たせました。

中から出てきた古いダウンは一見きれいに見えますが、人の汗や脂が付いているので、しっかりその後洗浄します。
何回も洗うことでダウン本来の風合いが蘇り、時にはフィルパワーが従来のヴァージン・ダウンよりアップすることもあるとか。つまり、「リサイクルだから質が落ちる」というわけではなく、場合によっては、高度化した洗浄技術によって、ヴァージン・ダウンをしのぐ品質が実現できるのだそうです。

ダウンは洗浄を繰り返しても「100年も200年も使える」と言われている素材なので、こうして古くなったダウン製品の回収・洗浄を繰り返してリサイクルすることで、まさに循環型の製品サイクルとなり、エシカルこの上ない素材となるのです。

「ユニクロ」は最近、独自のダウン・リサイクル技術を持つ機械をパートナーである東レと開発し、良質なリサイクル・ダウン製品を製造・販売しています。古くなった自社のダウン製品を世界中の店頭で回収し、それを日本の工場で蘇らせて新商品に使用しています。

また、その他にもこのリサイクル・ダウンを推進する団体やプロジェクトが続々登場しており、参加する企業やブランドも年々増えています。

昨年「モンクレール」は、2025年までにサステナビリティへの取り組み強化計画として、「ボーン・トゥ・プロテクト・サステナビリティ・プラン(Born to Protect Sustainability Plan)」を発表しました。
このプランは、「SDGs(エス・ディー・ジーズ)」に沿った目標が各項目でいくつか設定されているもので、ちょうど先月(2021年1月)から、DIST認証のダウンのリサイクルも開始しました。このリサイクルによって、新たな動物への負担を生まないだけでなく、従来のダウンに比べて水の使用量も約70%削減できるそうです。

このようにリサイクル・ダウンは動物保護の観点でエシカルなだけではなく、二酸化炭素の排出量や水の使用量も抑制できるのです。
また、ダウン製品の回収や解体作業に伴って就労の機会が増え、障がい者雇用などの創出にもつながるため、リサイクル・ダウンはまさにエシカルな目標を複数達成できる素晴らしい素材なのです。

毛皮と同様、「アニマルフリー(ヴィーガン)」でダウンの機能を再現するハイテク素材も登場してきました。

2012年にイタリア・ミラノで誕生したアウターブランド「セイブ・ザ・ダック(SAVE THE DUCK)」は、その名の通り“ダックを(ダウン採取から)守れ“というポリシーで立ち上がったブランドです。

ダウンの代わりに、最先端技術を駆使して開発されたリサイクルポリエステルの軽量素材「プラムテック(PLUMTECH)」を中綿に使用しており、ダウンに勝るとも劣らない保温性、通気性、軽量を実現しました。
また、この「プラムテック」は、なんとペットボトルを再生した微粒子をポリエステル繊維に絡めた特許素材で、水鳥だけでなく環境にもやさしい次世代素材です。とても期待がわきますね。

また、1980年代初頭にスペースシャトルの断熱材の製造などを手掛けていたアルバニー社(Albany International Corp.)がアメリカ軍の要請により開発した、保温性と柔軟性に加え撥水性を兼ね備えた超微細マイクロファイバー素材「プリマロフト(PRIMALOFT)」も、高級グースダウンの代替素材として、寝袋や寝具のみならず有名スポーツブランドや高級アパレルブランドのダウンジャケットに採用されています。
※現在は2012年にアルバニー社より独立したプリマロフト社が、プリマロフト事業を担っています。

その他日本でも、3Mジャパングループが研究・開発した高性能中綿素材「シンサレート」、クラボウが開発した生体模倣(バイオ・ミメティック)素材「エアーフレイク」など、次々とダウンに代わる高機能の素材が開発されています。

これらの素材はダウンに比べて機能は劣らないのに比較的安価なものもあり、すべて自宅で洗濯できるので衛生的ですし、扱いが楽なようですから、これからどんどん普及していくのではないでしょうか。

さて、ダウンについては3回にわたって、その品質と価格のこと、ファッションとしての歩み、最後はエシカルなダウンの取り組みについてお話ししてきましたが、今までよりもダウンに関心を持っていただけましたでしょうか?

また、このダウンをきっかけに、エシカルファッションにも興味を持つ人が増えてくれるといいなぁ、と思います。
ひとりひとりの考えが積み重なって、地球や人にやさしい社会を実現していけるとよいですね。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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