fbpx

ファッション豆知識

ダウン(2)

いよいよバーゲンも再値下げが始まる頃。
今年のバーゲンセールでは、みなさんは何を買いましたか?
冬のバーゲンでは、割引額が大きくなる高価格のアウターを買うのがお得なのではないかと思います。
今からダウンウェアを購入しても今シーズン中に着られますし、アウターはそれほどトレンドに左右されないものが多いので、来年以降でも問題なく着られるでしょう。

でもいざ、ダウンウェアを買おうとすると、その価格のバラつきが気になったりしませんか?
「ユニクロ」のような1万円以下のものから、「モンクレール」のように数十万円する高級なものまであります。さらにネットで探すと1000円代のものもあり、まさにピンキリです。
一見そんなに違いがわからないのに、なぜ、そんなに価格に開きがあるのでしょう?

その要因はまず、前回お話した「ダウンの種類」にあります。ちょっとおさらいしましょう。

極寒のアイスランドに生息する「アイダーダック」は、ダウンボールの保温力が高い上に、特別保護対象の野鳥のため、巣に残った羽毛を集めて採取されるので、手間や希少価値も加わり「高級品」とされているというお話を覚えていますか?
全般的には「ダック」より「グース」の方が温かいので「高級」と言われており、特にハンガリー、ポーランド、フランス産のグースダウンは「プレミアムダウン」と呼ばれ、このような高級ダウンが高級ブランドのダウンウェアに使用されています。
さらにその中でも選りすぐりの「マザーグース」を使用したものは高い保温力があり、最高級と言われています。

高級なグースダウンが多く入っていれば入っているほど、値段は上がります。反対に安価な「レギュラーダウン」やフェザーでボリュームを保っているものは、その膨らみほどには保温力はなく、重さも比較的重くなり、シルエットも美しくありません。

前回も書きましたが、あまりにも安いものは、「ダウン」と書いてあっても、中に入っているものが「ダウン」ではなく、ポリエステルなどの中綿であることもあるので、注意しましょう。

ダウンの処理方法にも違いがあります。

ダウンは「水鳥」の羽毛です。
動物の羽毛ですから「汚れ」も多く「臭い」もあるため、そのままでは使用できません。

生産地などから送られてきた羽毛は、まず丁寧に除塵、洗浄されます。
安いダウンの中にはこの除塵や洗浄をおろそかにしているものが多く、埃や塵などの不純物をしっかり除去せず、殺菌が徹底されていない不衛生なダウンもあるそうです。汚れが残っていると、次第に異臭がしてくるだけでなく、使用感も悪くなります。また、鳥は病原菌やウイルスを持っている場合もあるので、しっかり洗浄、殺菌されたものを選びたいものですね。

その後、乾燥させ、吹上式などの風力選別機でグレードが分けられます。
高級ダウンウェアに使用されているダウンは、こうした洗浄、殺菌が徹底されている上に、さらにそこからグレードの高いものを選りすぐって使用しているのです。

ちなみに「高級品」として名高い「モンクレール(MONCLER)」のダウンウェアは、使用しているダウンの産地、生産ルートおよび鮮度や保温、密度など、多くの項目についての厳しい認定基準※をクリアした、まさに最高峰のダウンが使われているのです。
※2017年秋冬シーズンより「キャトルフロコン (4Flocons) 」からより厳しい品質管理が求められる「DIST(Down Integrity System Traceability)」に変更されています)

現在のダウンウェアにおける「高級ブランド」は、このモンクレールをはじめとして多くのブランドが、もとは登山やアウトドアスポーツ用品を扱う会社でした。極寒の地で命を守る機能着としてダウンウェアが開発されたため、高機能であることは必須で、その品質を追求する姿勢が高品質な商品開発につながり、ブランドを高級化させたとも言えるでしょう。

1922年にオーストラリアの著名な登山家ジョージ・イングル・フィンチ(George Ingle Finch)が、軍服などを取り扱っていたS.W.シルバーアンドカンパニー(S.W.Silver and co.)というイギリスの会社に、それまで布団に使われていたダウンを詰めたコートの開発を依頼しました。その時使われたダウンは、あの「アイダーダック」のものと言われています。その保温性の高いダウンコートを着て、彼は8321mという当時の人類最高到達高度の記録を打ち立てたそうです。これが「ダウンウェアの始まり」と言われています。

ダウンウェアの商品化を初めて手掛けたのは、アメリカの「エディー・バウアー(Eddie Bauer)」です。現在ではアメリカンカジュアルウェアの代表的なブランドですが、創業当時はスポーツ用品店でした。

創業者のエディー・バウアー氏は大の釣り好きで、ある真冬に友人と釣りに出かけた氏は、厳しい寒さの中あわや凍死する経験をし、それが「最高の防寒着を作ろう」と決心するきっかけになったそうです。
エディは子供の頃に叔父から聞いた、「日露戦争中のコサック兵が優れた保温効果のある羽毛を利用していた」という話を思い出し、すぐにこのアイデアを形にして、とうとう1936年、中綿に羽毛を入れ、キルティング加工したダウンジャケット「スカイライナー」を誕生させ、特許も取りました。
これが大ヒットし、その後「伝説のダウンジャケット」と呼ばれるほど超ロングセラーとなって、社運を大きく変えたのです。

エディは「スカイライナー」による大成功の後も、その機能性を高めることを緩めませんでした。アメリカ人として初めてエベレスト登頂に成功したジム・ウィッタカー(Jim Whittaker)の成功を支えたのも、このブランドの優れた機能のダウンウェアでした。

高機能のダウンウェアとして人気の「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」が、メーカーとして初めて製造した商品は「寝袋」でした。
この寝袋の軽量さとコンパクトさが卓越しており、そのノウハウを元に1969年に開発された初のアウターが「シエラパーカ」、後に「キャンプシエラ」と呼ばれるフード付きのダウンジャケットです。
この「シエラパーカ」もエディー・バウアーの「スカイライナー」と同様、爆発的にヒットし、ロングセラーの人気商品となり「今日のダウンパーカの原型」とも言われているそうです。

また、ザ・ノース・フェイスは、初めて最低温度規格の表示を製品に記し、消費者たちからの大きな信頼性を生み出しました。
極寒の地ではダウンウェアの性能が命に直結するため、こうした機能データは購入者にとって大事な情報なのです。

ダウンジャケットの「高級ブランド」と言えば、先ほど、「ダウン」自体の品質が卓越している、とご紹介した「モンクレール」。

1952年創業のモンクレールは、登山家用のテントやシュラフ(寝袋)、ウェアなどを開発していましたが、その工場で働くスタッフの防寒用に作った手足を出せるシュラフが、今日のダウンウェアの原型なのだそう。

その後モンクレールは、フランス人として初めてヒマラヤ登頂に成功したリオネル・テレイ(Lionel Telai)をテクニカルアドバイザーに迎えて、軽量で保温力に優れ、機能的なダウンウェアを開発していきました。
ダウンだけでは型崩れする弱点を克服するため、復元力の強いフェザーを混ぜたダウンウェアを開発したのも、モンクレールだと言われています。

その優れた機能ゆえに、世界の登山家たちから絶大な支持を得るようになったモンクレール。1968年の地元グルノーブルで開催された冬季オリンピック大会で、モンクレールはアルペンスキーのフランス代表チームの公式ウェアに採用され、その洗練されたダウンウェアに世界の人々が注目し、その名が知られるようになりました。そのオリンピック以来、フランスの国鳥である「雄鶏(おんどり)」がモンクレールのシンボルマークとなり、ブランドロゴとして使われるようになったそうです。

1980年代に入ると、その洗練されたデザインによってパリのモード界からも注目され、パリのセレクトショップなどにも置かれるようになりました。
モンクレールのダウンウェアは、登山家やスキーヤーなどのプロ御用達の機能着から、現在のような「ファッションアイテム」としての地位を確立したのです。
以来モンクレールは、流行を取り入れたファッション性の高いダウンウェアを世に送り続けています。

一方、高級ダウンのブランドとして人気のイタリアの「デュベティカ(DUVETICA )」などのように、モンクレールとは異なり、初めから「高級ダウンの専門ブランド」として立ち上がったブランドもあります。
専門ブランドができるほど、機能着だったダウンウェアのファッション化が進んだとも言えるでしょう。

ダウンウェアは、アウターの中でもパターンを作るのが難しい服のひとつと言われています。ダウンウェアで美しいシルエットを作るには、高度な服作りのテクニックが必要なのです。
また、縫製技術が低いと保温性が著しく低下しますし、中からダウンやフェザーが出てきてしまいます。

そして、「モンクレール」や「デュベティカ」などの高級なダウンウェアに共通しているのは、保温性や軽さ、防水性などの機能の高さだけではなく、膨らみがちなシルエットをスッキリとしたスタイリッシュなシルエットにする技術です。それはつまり、「高いファッション性を実現するデザイン力と技術」も「高級ダウンウェア」と言われるための必要要素だということです。

日本のダウン製品も定評があります。

世界トップクラスの技術を持つ三重県の羽毛素材メーカーの「河田フェザー」や寝具メーカーで有名な東京西川が、ナノ・ユニバースと共同開発した「西川ダウン」などのダウンジャケットがよく知られていますね。
あとよく目にする「モンベル」ですが、その名からフランスの会社かと思っていたら、日本の登山家が登山用具やアウトドアグッズの開発を目ざして設立した大阪の会社でした!

スポーツメーカーの「デサント」が手がける「水沢ダウン」は、その機能の高さはもとより、「機能美」を追求したデザインが評価を得ています。
このダウン製品を作っている岩手県旧水沢市(現奥州市)の工場の熟練した職人に敬意を表して名付けられた「水沢ダウン」。
2010年バンクーバーで開催された冬季オリンピックの日本代表選手団オフィシャルスポーツウェアとして採用された際のコンセプトは、「FUNCTION TO IMPRESS〜機能性デザイン〜」でした。
この時水沢ダウンが注目されたのは、従来のダウンウェアの「弱点」と言われる「水の侵入」を最先端の3つの技術で克服したことでした。ダウン製品は水分が少しでも入ることで、中綿のダウンの劣化が進んでしまうのです。

その技術のひとつは、差しステッチ部分を熱接着によるノンキルト加工にすることで水の侵入を防いだ「熱接着ノンキルト加工」。糸で縫製しない(シームレス)ことで、水沢ダウンは高い防水性を実現しただけでなく、針穴が無いため羽抜けも防ぎました。この画期的な技術は、世界をも驚かせました。最近ユニクロでも「シームレスダウン」が販売され始めましたが、シームレスはデザインの進化というよりも、ダウンウェアの機能を高めた技術だったのです。
そしてどうしても縫製が必要な肩線や袖ぐり、脇線などには防水性の高い「シームテープ加工」を施すことで水の浸入を防止し、ファスナーも止水加工を施した特殊なファスナーを用いて、水の浸入を防ぎました。

また、「ストリームライン」と呼ばれる胸のラインは、単なる「デザイン模様」ではなく、表地に付着した雨の流れを抑制し、ポケットへの水の流れを軽減するためなのだそうです。この技術をフードに施すと、雨天時の視界を良くし、安全性も確保します。
その他にも表地、裏地の生地も含めて、保温性だけではなく、その温かさを調節できる機能など、考えうる必要機能をすべて高いレベルで搭載しながら、シンプルな洗練されたデザインなので、特にスタイリッシュな男性の間で人気アイテムとなっているようです。

登山やアウトドア着として開発されたダウンウェアは、軍隊が採用することでも進化しました。

その後、特にアメリカではタウン着として人気となり、「アメリカンカジュアル」を体現するアイテムとなりました。
この、スポーツウェアやミリタリーウェアなどの機能着が、一般的にも人気となりカジュアルウェアになっていく例は、本当に多いですね。ここのコラムでも「Tシャツ」や「サングラス」などテーマのアイテムの多くが、そのような進化をしていました。
ファッションとはそういうものなのでしょうね。

日本におけるダウンウェアの普及は、「アメリカンカジュアル」、いわゆる「アメカジ」が、若者の間で流行した1980年代だと言われています。アウトドアウェアやワークウェアといった機能着をファッションに取り入れた「アメカジ」は、実用性もともなったファッションだったために、本物志向の目の高い若者がまず飛びつきました。

当時の映画「トップガン」で主人公のトム・クルーズが着用していたフライトジャケットをきっかけに、アメリカ空軍の「MA-1」というダウン仕様のフライトジャケットがブレイクしました。余談ですが、実は映画のフライトジャケットはMA-1ではなく、従来の革製のものだったのですが、デザインが似ていることから、当時「アメカジ」として輸入されていたMA-1が売れたそうです。

1990年代後半頃からは、日本でもファッション性の高いモンクレールなどの高級ブランドの人気が高まり、現在、その人気は不動のものとなっています。

品質の良いダウンウェアには、「質の良さ」、「機能」や「ファッション性」の高さ、というそれなりのきちんとした理由があるのですね。

その他、世界的なダウンの供給不足や、かさばるので、倉庫での保管や輸送の際のコストがかかることなども、高価になる理由として考えられます。

「高級ブランド」はいくつもありますが、様々なブランドのことを調べると、実にそれぞれ高品質の中でも特徴があって面白いですよ。

「ファッション性」が高くなったことで、カジュアルだけでなく、スーツに合わせてダウンコートを着用する男性も増えました。なんといっても軽く、扱いやすいので、男性の冬のワードローブには欠かせないアイテムと言えるでしょう。

また、筆者は夏の南国旅行でも、飛行機内や冷房が効いている店などの冷房対策で、薄手のダウンジャケットを持って行きます。最近は折りたたみ傘のように、コンパクトになるものが出ているので便利ですよね。

「ダウン」のお話、まだまだ続きます。
次回は、「エシカルファッション」の観点で、ダウンのことをお話ししていきたいと思います。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

お問い合わせはこちら