ファッション豆知識

えり<襟・衿・領>(7)

東洋においても西洋においても、北方民族の衣服の襟を起源とする「立ち襟」は、その機能やきちんとした印象を与えることから、官僚や軍人が着用する「仕事着の襟」として定着していました。

西洋におけるそれらの「仕事着」とは、防寒性にすぐれた分厚いウール製のシングルボタンのジャケットなどが多かったと思われるため、この「立ち襟」、暖かい地域や暑い夏の時期はちょっと暑苦しい襟ですよね・・・
暑いと、ボタンを外して前を「開き」たくなりますよね・・・

そう、「立ち襟」を開いて登場したのが「開き襟」です。
「立ち襟」を折って、さらに胸もとを開いて熱を放出しました。「開き襟」の誕生は、デザインというよりも、働く現場での機能的な理由からだったのですね。
最初に開いたのは軍人ではないかと思われますが、郵便配達人とも言われているようで、本当のところはわからないようです。

「開き襟」として代表的なものは、「テーラード・カラー」と呼ばれるスーツなどのジャケットの襟ではないでしょうか。
「テーラード・カラー」は、身頃の首回りについている「上襟」と「下襟」が縫い合わされて、ひとつの襟を構成しています。
「上襟」を「カラー」、「下襟」を「ラペル」と呼んでおり、縫い合わされた部分のV字の切り込みを「ノッチ」、縫い合わせのラインを「ゴージ・ライン」と呼んでいます。「ノッチ(notch)」は「切込み、峠」というような意味があり、「ゴージ(gorge)」は「渓谷、谷間」といった意味があるのですが、まさに切り込んだ峠の谷間にひかれたラインのようです。

「テーラード・カラー」の形としては、「ノッチト・ラペル・カラー(ノッチ・ラペル)」という下襟の先が下向きのものが一般的です。無難で堅実なデザインなので、特にビジネス・シーンでは主流の襟といえます。

反対に下襟の先が上向きにとがっているものは「ピークト・ラペル・カラー (ピーク・ラペル)」といいます。「ピークト(Peaked)」は「尖った」という意味で、剣先のような鋭い下襟が特徴の襟で、日本では「剣襟(けんえり)」とも呼ばれています。ドレッシーな印象があるので、もともとはタキシードなどのフォーマル・ウェアに採用されていたデザインですが、現在ではスーツやジャケットにも使われるようになりました。
ラペルの尖り方がやや控えめでやわらかな「セミピークト・ラペル」という襟もあります。

現在のタキシードの襟に見られるエレガントな「タキシード・カラー」は、長めの「へちま襟」ですが、「へちま襟」は上襟と下襟の切り替えがなく、襟全体がへちまのような形で「ショール・カラー」とも呼ばれています。エレガントな印象を与えるので、女性服にもよく使われます。

この「ショール・カラー」に切り込み、すなわち「ノッチ」が入ると、「ノッチト・ショール・カラー」になります。

襟のシェイプに曲線があると、やわらかいイメージになりますね。
「ノッチト・ラペル・カラー」の襟先が丸くなった「クローバー・リーフ・カラー」(「フラワー・ラペル」、「ラウンド・ラペル」などとも呼ばれる)も女性服によく見られます。

その他、「開き襟」も「折り襟」と同様、その形がそのまま名称についた襟が多くみられます。例えば、幅が狭いものは「ナロー・ラペル」、襟の形が三角だと「トライアングル・カラー」、「ピークト・ラペル」の上襟の先端に丸みがあって、魚の口の様に見える「フィッシュ・マウス・ラペル・カラー」なんていう襟もあるそうです。

また、上襟の方が下襟の幅より広く、Tの文字に見える襟は「Tシェイプト・ラペル・カラー」、反対に下襟の方が上襟の幅より広く、上下の接合部がLの文字に見える襟は「Lシェイプト・ラペル・カラー」、下襟の上に「ノッチ」を入れてM字型にすると「Mシェイプト・カラー(Mノッチ・ラペル)」になります。

「折り襟」のように、「開き襟」にも人名の名称がついた襟があります。

有名なのは、「ナポレオン・カラー (ボナパルト・カラー)」でしょう。大きな下襟と立ちぎみの上襟を特徴とする、よくナポレオンの肖像画で見られるあの大きな襟です。ナポレオンやその時代の軍人が着用しましたが、現代でもコートに用いられています。

また、現在主流の「ノッチト・ラペル・カラー」を大きくしたような「モントゴメリー(モンゴメリー)・カラー 」は、第二次世界大戦中に活躍したイギリスのモントゴメリー将軍が着用したことから、その名がつけられました。

これらの大きな「開き襟」は、ジャケットよりもコートでよく見られます。コートの襟としてはアルスター・コートの「アルスター・カラー」なども人気です。

その他、面白い形のもので「カスケーディング・カラー」という襟があります。これは、襟もとから胸にかけて襞(ひだ)を折り重ねて波打つようなシルエットをしていて、名称の「カスケード(cascade)」とは「連なった小さな滝」を意味するそうです。

上襟が「立ち襟」で下襟が折り返っている「スタンド・アウト・カラー」は、「立ち襟」が開かれた経緯がそのまま残されたような襟です。

「開き襟」も「折り襟」と同じく、非常にヴァリエーションが多く、とてもこちらでは書ききれませんので、ご紹介はこのくらいにしておきましょう。

さて、少し話は戻りますが、この「開き襟」、「立ち襟」を開いて登場したものでしたね。
実は、ジャケットの「ラペル(下襟)」の部分に「立ち襟」の痕跡が見つけられるのですが、みなさんわかりますでしょうか?
左の「ラペル」の上方にボタンホールらしきものがありますよね?
穴だけが開いていて、対するボタンが見当たらないこと、不思議に思われませんでした?

実際に「立ち襟」のボタンを外して折り、ぐぐっと開いてみましょう。そうすると、第一ボタンのボタンホールが左の「ラペル」の上方にきますよね。これが「立ち襟」の名残です。
不要になった第一ボタン自体は無くなったのですが、なぜかボタンホールだけが残りました。

しかもこの「立ち襟」の名残のボタンホール部分、よく見ると3mmくらいしか穴が開いていないものが多いですよね。これではボタンが通せませんが、そもそもボタンは無くなったのだから、穴を中途半端に開ける必要があるのでしょうか?
さらに謎が深まります・・・

次回は、その謎のボタンホールについてお話したいと思います。お楽しみに!

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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