ファッション豆知識

えり<襟・衿・領>(6)

前回、たくさんの襟をご紹介しましたが、「立ち襟」「折り襟」「開き襟」のうちの「折り襟」だけでも相当な種類がありました。
襟の種類が多くなるのは、少しの違いで別名称が付いてしまうものが多いからですが、その差異を見ていると、襟のヴァリエーションの変遷が見えてきます。

今回は最初に登場した「立ち襟」のヴァリエーションを見てみましょう。

「立ち襟」は総称として「スタンド・カラー(スタンディング・カラー/スタンドアップ・カラー)」といいますが、大きく分けると、前に切れ込みのあるものとないものがあります。

基本形は前に切れ込みがない、首の周りを帯(バンド)が巻いたような襟です。細い帯状の「バンド・カラー」は今年の春からのトレンドで、街でもこの襟のシャツやワンピースをよく見かけます。
反対に帯の幅が太い(高い)襟は「トール・カラー」と総称されますが、中でもあごを隠すほど高いものは「チン・カラー(チムニー・カラー)」と呼ばれています。
同じあごまでの高さがあるものでも、女性らしい曲線的なデザインの「スワン・ネック(スワン・ネック・カラー)」は、その名の通り白鳥の首のようなシルエットで、ワンピースやジャケットなどに気品を与える襟です。
フリルが付くと、「フリル・スタンド・カラー」になりますが、なんだかこの襟、見覚えがありますよね。「えり(2)」「えり(3)」でご紹介した、中世ヨーロッパ男性の衣服「プールポワン」に付いていた襟に似ています。「プールポワン」に「スタンド・カラー」が付き、次第にその高さが高くなっていき、高くなった襟の内側に襞(ひだ)が付き、その襞(ひだ)がだんだん大きく装飾性を増して、あの「襞襟(ひだえり)」が生まれたのでした。

その他、帯の部分がベルトやストラップのような「ベルト・カラー(ストラップ・カラー)」や、「スタンド・アウェー・カラー 」と呼ばれる、その名の通り帯が少し首から離れている襟など、「立ち襟」も予想以上に種類があります。

前に切り込みがあったり、開きがある「立ち襟」は、官僚や軍隊で着用されたため、ヴァリエーションが多いように思います。

東洋、西洋とも寒い地域の防寒襟として発達してきた経緯は「えり(1)」や「えり(2)」でもお話しましたが、特に近代では、アジア北方の民族が興した清朝中国の官僚たち(マンダリン)が着ていた制服があらためて世界に広まったため、現在も欧米では「立ち襟」のことを「マンダリン・カラー」とか「チャイニーズ・カラー」と呼んでいます。現在でも、中国の女性服「旗袍(チイパオ)」がこの襟ですね。

さらにデザインを洗練させ、前に少し開きをもたせたり、重ねたものが、いわゆる「マオ・カラー」です。「マオ」は、あの中華人民共和国を建国した「毛沢東(マオ・ツォードン)」で、昔の中国の人民服や今でも北朝鮮の人民服など共産主義圏の制服に見られます。

また、この防寒と首を保護する短い襟は、英国陸軍や米海軍など欧米の軍服にも採用され、「オフィサー・カラー(将校の襟)」とも呼ばれています。

その欧米諸国の軍服が、日本の軍服としても採用されました。
現在の学生服の「詰襟」も、この時代の軍服が元となっています。女子学生のセーラー服も海兵服が由来だったことを思うと、男女とも学生服は軍服由来であることがわかります。

ちなみに、「ハイカラ」という言葉の語源は、「ハイ・カラー」なのだそう!

また、インドでは現在でも正式な場でのジャケットは「立ち襟」です。インドの初代首相ジャワハルラール・ネルー(ネール)が、お尻まで届く長めの裾の「立ち襟」のジャケットを着ていたことから、この正装のジャケットは「ネルー(ネール)・ジャケット」と呼ばれています。

首相の名前が付いた襟というと、19世紀後半のビクトリア王朝時代にイギリス首相だったウィリアム・グラッドストンに由来する「グラッドストン・カラー」という襟もあります。こちらも頬に向かって高く立ち上がった「立ち襟」ですが、前の開きが少し大きめで、その左右の襟先はやや広がって折り返っており、「ウイング・カラー」とも似ているデザインの襟です。グラッドストンがスカーフのような黒いタイと一緒に着用していたことで有名になりました。

「立ち襟」は、キリスト教の聖職者が着用する「カソック」と呼ばれる服にも見られます。この特徴的な襟は「聖職者の襟」という意味で、「クレリカル・カラー」とか「クラージー・カラー」と呼ばれています。

「クレリカル・カラー」といわれるものでも、様ざまな種類があります。
伝統的な「フル・カラー・タイプ」といわれるものは、首の後ろで閉じるリング状のもので、ほとんどが白色です。もともとは綿や麻で作られていましたが、現在はプラスチック製のものが多くなっているそうです。
しばしば、その上を覆うカバーをともなっており、のどの付け根あたりを小さな白い長方形に開いて、下の白い「クレリカル・カラー」をのぞかせています。またそのカバー自体を「カソック」の襟のように見せるため、白い上端ものぞかせる場合もあります。
この襟は、犬の首輪に似ていることから「ドッグ・カラー」という通称もあるそう。「聖職者」と「犬」なんて、なんだかギャップのある通称ですよね・・・

聖職者が説教を行う際には、「プリーチング・バンド」と呼ばれるリボンのような二股に分かれた帯状のネック・ウェアを付けることもあります。
このネック・ウェアは、イギリスの裁判官や法廷弁護人が法廷で着用すると、「コート・バンド(二股襟 )」と呼ばれたりします。シーンで呼び方が変わることもあるのですね。

また、「カソック」の前身頃に、取り外し可能な白いタブが付いているだけのタイプもあります。
その他、この「クレリカル・カラー」にビブが付いた「ビブ・カラー」というものもあります。

日本では本来の用途とは別にその機能を活用し、衣服の「スタンド・カラー」の内側に付けて襟の汚れを防いだり補強したり、襟に色のアクセントを付ける「襟カラー」「襟布」として使われています。

先のグラッドストンは生涯を通じて敬虔なイングランド国教会の信徒であり、キリスト教の精神を政治に反映させることを目指した政治家でしたが、彼が身に付けた「グラッドストン・カラー」が、「クレリカル・カラー」を付けた「カソック」の襟もとに似ているのは、宗教的な意味合いもあったかもしれません。

このように、品や適度なフォーマル感も与える「立ち襟」は、シンプルに見えて意外とオシャレの幅も広いので、日常的にももっと活躍しそうな注目アイテムです。

「立ち襟」はのど元までしっかり覆うため、防寒にも優れている、と書きましたが、反対に暖かな気候の地では暑いでしょう。
詰襟の学生服を着たことがある人は思い当たるのではないかと思いますが、夏場にあの制服だと、前のボタンを外してのど元を開きたくなりますよね?

そう、「立ち襟」を開くと、なんだか見覚えある形になりませんか?
次回は、「立ち襟」を開いたら登場した襟のお話です。お楽しみに!

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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