ファッション豆知識

えり<襟・衿・領>(5)

皆さんは「洋服の襟」といったら、どんな襟を思い浮かべるでしょう?
ワイシャツの襟のようなものを思い浮かべる人が多いかもしれませんね。

「襟の種類」で検索すると、非常に多くの種類の襟があることがわかります。
標準的なものをざっくりと分類すると、首に沿って立つ「立ち襟」、折り返されている「折り襟」、そして前に開いた「開き襟」、となるでしょうか。

まず西洋、東洋ともに最初に登場したのが「立ち襟」でした。どちらも北方の民族の防寒用として発達した歴史があることを、「えり(1)」「えり(2)」でお話しましたね。
その後、現在主流の「折り襟」が登場したことで、襟の種類が劇的に増えたといえるでしょう。前回お話したように、現在のドレスシャツの襟のタイプのほとんどが1800年代後半に登場し、さらに20世紀に入ると、細かい部分に趣向がこらされて、数えきれないくらいの襟が登場しました。

ワイシャツなどの標準的な襟は「スタンダード・カラー (レギュラー・カラー)」と呼ばれ、これを元にした形だけでもヴァリエーションがたくさんあります。

襟の名前はその形状を表しているものが多いようです。
ちょっと小ぶりなものは「タイニー・カラー (チビ襟)」、縁取りがある「フレームド・カラー (トリミング・カラー)」、水平(ホリゾンタル)に近いくらい開いているものは「ホリゾンタル・カラー(カット・アウェイ)」、アーチの形なら「アーチド・カラー」、折部分がトンネルのようになっている「トンネル・カラー」、花びらの形の「ペタル・カラー」、馬の蹄の形の「ホースシュー・カラー」、二枚重なっているものは「ダブル・カラー(二枚襟)」などと襟の形から命名されたものはわかりやすいですね。

ただし、少しでも差異をつけると呼称が変わってしまいます。
襟先が丸い「ラウンド・カラー (クラブ・カラー)」も、ちょっと襟の開きが広いものは「バスター・ブラウン・カラー」と呼ばれたり、形は普通の「スタンダード・カラー」でも切り替えがあるものは「マイター・カラー」と呼ばれて区別されています。

また、同じ形状でも付いている襟ぐりの形が違うと、新たな襟の名称が付くようです。例えばポロ・シャツの「ポロ・カラー」も、Vネックに付くと「ジョニー・カラー」と呼ばれたり、ボタンがないものは「スキッパー・カラー」といいます。
着るのがラクなのにきちんと見える「スキッパー・カラー」は、女性のきれいめコーディネートで大活躍しており、持っている方も多いのではないでしょうか。

本当にほんのちょっとの違いでも、「違う襟」として分類されるのは、それだけ少しの違いでも印象が変わる襟の特性ゆえかもしれません。

少しの差異ごとにその特徴を名称に入れていくと、襟の名前は長くなりがちです。
例えば、襟先が長いものを「ロング・ポイント・カラー」と呼びますが、さらにその中でも襟先が長めで襟の開きが狭いものは、「ロング・ポイント・ナロー・スプレッド・カラー」と名付けられています。略して「ロング・ナロー・カラー」というそうですが、この襟には別の通称があり、「バリモア・カラー」とも呼ばれるそうです。
「バリモア」と付けられた由来は、20世紀初頭のアメリカの映画俳優ジョン・バリモアが好んで着用したことからのようですが、ジョン・バリモア以外のハリウッドスターなどにも好まれていたことから、この襟は「ハリウッド・カラー」「カリフォルニア・カラー」「ダンディ・カラー」などとも呼ばれていたようです。
「ロング・ポイント・ナロー・スプレッド・カラー」よりも、「バリモア・カラー」のような通称の方が、使いやすく広まりやすいですよね。
その辺は日本の「下駄」の名前にも通じるところがあるように思います。

シャツの種類は、ほぼ襟の種類で展開されている、と言ってもよいかもしれません。
「ボタンダウン・シャツ」や「ピンホール・シャツ」など、襟の名前がそのままシャツの名前として付けられていることが多いようです。

そして特徴的な襟をともなったシャツが、ひとつのファッション・スタイルを確立していることも多くみられます。例えば、1900年頃のアメリカで登場した「ボタンダウン・シャツ」は、アイビールック・スタイルを構成する大事なアイテムです。

「ボタンダウン・シャツ」は、皆さんもよく知っているシャツのひとつかと思いますが、前のボタンが上から下へ並んでいるので「ボタンダウン」というのかと思っている人も多いのではないでしょうか。(実は筆者は昔そう思っていました…)
これはその襟が、襟先にボタン留めのある「ボタンダウン・カラー」であるからです。

ちなみに「ダウン」のところが反対の「アップ」になった「ボタンアップ・カラー」という襟もありますが、こちらはネクタイの結び目をきれいに見せるために、襟先をタブのように伸ばして、ボタンで留めるものを指します。
似たような襟で「タブ・カラー (タブ襟)」がありますが、こちらは襟の裏にタブが縫い付けられていて、それを伸ばしてボタンで留めます。

「ネクタイの結び目をきれいに見せる」というのは、男性のドレスシャツで求められる大事な襟の機能です。
他にも襟の中ほどにアイレット(ハトメ)を設け、ピンを通して襟間を渡して留める「ピンホール・カラー(アイレット・カラー)」という襟もあります。

男性のスーツ・スタイルも、この襟の形にこだわり始めると、365日毎日違う組み合わせをしても足りないくらい、おしゃれが楽しめそうですね。

「折り襟」は、構造的に「台襟(襟台・襟腰)」があるかないかでも、大きく分類できます。

「台襟」は首に沿って立つ「立ち襟」の名残のような部分で、「折り襟」は構造的にこの「台襟」のほか、「襟先(剣先)」、「襟羽」という部分に分けられます。
「襟羽」は、私たちが「襟」といって思い浮かべる羽のようになっている部分です。「襟先」は襟羽のとがっている先端の部分で、この「襟先」が長い「ロング・ポイント・カラー」という名前は、先ほど出てきましたね。反対にこの「襟先」が短い襟は「ショート・ポイント・カラー (スモール・カラー)」と呼ばれています。

「イタリアン・カラー (ワンピース・カラー)」は「台襟」から「襟羽」まで1枚仕立てになっており、実質上「台襟」は無いともいえます。
少し大きめのやわらかい「ポエッツ・カラー」という襟は、「イタリアン・カラー」に似ていますが、芯の無い「台襟」が一応あるようです。

「立ち襟」の場合は、この「台襟」の高さ(幅)を「襟幅」といいますが、「折り襟」の「襟幅」というと、この「台襟」まで含めて「襟幅」とする場合と、「襟羽」部分のみを指す場合があるので注意です。

先に見てきた襟は、「襟先」や「襟羽」の形の違いで異なる名称が付いていましたが、この「台襟」の高さ(幅)の違いでも、異なる襟の名称が付いたりします。

定番コートのひとつ「ステン・カラー・コート」の襟は、「台襟」部分が前の方では低く、後ろが高くなっています。ちなみに、「ステン・カラー」はどうやら和製英語らしく、本来は「ターン・オーバー・カラー」とか「コンパーチブル・カラー」というそうです。
この「ステン・カラー」の第一ボタンを外して折り返すと「バルマカーン・カラー(バル・カラー)」になり、両者はよく混同されています。

また、通常この「台襟」のところにボタンが付けられますが、ボタンが無いものは「プレスマン・フロント (プレスマン・シャツ・カラー)」といい、同じ台襟が高い襟でも、ボタンが2つ付いているものを「ドゥエボットーニ (デュエボットーニ)」、ボタンが3つになると「トレボットーニ」という別の襟名になります。面白いですね。

「台襟」の無い襟を「フラット・カラー」と総称していますが、その中でも広いネックラインに沿ったものを「ロー・カラー」と呼んでいます。

ロー・カラーは、襟ぐりの形が大きく影響します。
幅が広い「イートン・カラー」や60〜70年代に流行った深めのVネックに付けられた「チェルシー・カラー」などは、スタイルが一気にクラシカルな雰囲気になるので、昨今のレトロブームでまた見かけるようになりました。

「ピューリタン・カラー」、「ピルグリム・カラー」、「クエーカー・カラー」など宗教の信徒服の襟は、だいたいが大きな「フラット・カラー」であることが多いようです。

私たちがよく知っている「セーラー・カラー」も、大きな「フラット・カラー」ですね。
セーラー服はその名の通り、もともと船乗りが着るものでしたから、あの大きな襟にも意味があります。諸説あるようですが、風や機械音で声が聞こえづらい船上で、音を聞こえやすくするために襟を大きくして、聞く際に襟を立てて使った、というのが有力説のようですよ。

「折り襟」の「フラット・カラー」のひとつとして、この「セーラー・カラー」をあげましたが、胸元が大きく開いているため、この襟を「開き襟」とみることもできます。先ほど「ステン・カラー」と混同されるものとしてご紹介した「バルマカーン・カラー(バル・カラー)」や「ショール・カラー(へちま襟)」も同様で、「折り襟」と「開き襟」どちらにも分類できます。
その他にも、「立ち襟」を折り返した「折り襟」の「ダッチ・カラー」や、ボタンで閉じれば「立ち襟」になるツーウェイの「ドッグイヤー・カラー」、蝶ネクタイを着用する時によく使われる、「立ち襟」の襟先を少し翼のように折り返した「ウイング・カラー」のように、「立ち襟」、「折り襟」、「開き襟」に分けられないものも多くあります。

それは、襟が「立ち襟」から始まって少しずつ変化が施されていったからで、様ざまな襟の種類を見ていると、その変遷をたどるようでとても面白いです。
その変遷については、次回もう少し詳しくお話したいと思います。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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