ファッション豆知識

礼服

2月に入り立春も過ぎると、陽気が少しずつ春にむかっていきます。
春を告げる梅の花も咲き始め、所によっては寒桜も見られるようです。花を見ると、春の訪れを実感しますね。

そして春は別れと出会いの季節。
進学や就職で、これまでの環境を離れて新しい生活を始める人も多いでしょう。この時期は、卒業式や謝恩会、入学・入社式など式典(セレモニー)が多くなり、礼服の需要が高まります。

「礼服」とは、日本において一般的には「冠婚葬祭」で着用する礼儀を踏まえた衣服を指します。「冠」は成人式、「婚」は結婚式、「葬」は葬式、「祭」は儒教的な祖先の祭祀のことで、その際の装いを「礼装」と呼びます。「礼装」と「正装」は若干その意味合いを異にしますが、現代ではだいたい同じような意味合いで使われています。

れいふく礼服

儀礼のときに着る正式の衣服、儀式のときに着る服、式服、英語のフル・ドレス (full dress)、セレモニアル・ドレス (ceremonial dress)などにあたる。これを身につけることを礼装という。儀礼の種類によって宮中で用いられるコート・ドレス (coat dress)のような特殊なものから、一般の冠婚葬祭などの儀式に用いられるものまである。一般のものは、正装とほとんど同じであるが、礼服、礼装が、礼儀を第一とした衣服であるのに対し、正装の中には、常識的な意味で目的にかなった衣服という意味がふくまれる場合もあり、必ずしも儀礼を第一としない点において、礼装とややニュアンスを異にしている。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

日本の和服での「正装」「礼装」などについては、以前「着物」の回で少しお話ししましたので、今回は洋服に絞ってみたいと思います。特により型が決まっている男性フォーマルについて簡単に解説したいと思います。

日本男性の礼装は、なんとなく黒いスーツに結婚式などおめでたい席には白のネクタイ、葬式には黒いネクタイを合わせて着る、といった認識が多いのではないでしょうか。実はこの形式は日本独自のもので、戦後復興期にあるアパレル老舗企業が、黒いスーツを1着あつらえて、「ネクタイの色で使い分ければ便利だ」と提唱して生まれた略式の形式です。あまり裕福ではない時代背景もあり、広く普及しました。
現在「フォーマル」といえば、この日本独自の略式スタイルが多いかと思います。

日本では、本来の礼服である和服があったことや、パーティー文化が無いため、後から入ってきた西洋の「礼装」とその決まりである「ドレスコード」は、あまり日本の社会では一般化していないので、きちんと理解している人は少ないのではないでしょうか。
また、日本独自の仕様になったものもあります。例えば、日本のドレスシャツには胸ポケットがありますが、実はこれは西洋では規定外になるそうです。というのも、シャツは元々西洋では「下着」として着用されていたからだとか。

西洋の正式な礼装が日本で見られるのは、結婚式か賞の授与式などの式典くらいでしょうか。

正式な「礼装」の「礼服」は、昼間に行われる結婚式や披露宴は昼の礼服、夜に行われる舞踏会や結婚式は夜の礼服、と「昼」と「夜」のものに分けられています。それぞれに格式があり、「正礼装」「準礼装」「略礼装(略礼服)」の3つに分類されます。

昼の最も格式の高い正礼服には「モーニングコート」があります。よく「モーニング」と略されて呼ばれていますね。英語では「morning dress」で「morning coat」だと上着のみを指します。「カット・アウェイ・フロックコート」とも呼ばれるように、フロックコートの前裾を乗馬用に斜めに切り落としたもので、18世紀のイギリス貴族の乗馬服に由来します。主に結婚式では新郎や両家の父、公的な式典、記念パーティーでは主催者、葬式では喪主が着用します。

昼の準礼服は「ディレクターズスーツ」です。ディレクター、つまり「重役」クラスのフォーマルスタイルということですね。黒のジャケットに黒とグレーのストライプのスラックス(コールパンツ)を合わせるのが基本です。結婚式では親族、主賓や上司など立場のある招待客、または親族がディレクターズスーツを着ます。

夜の正礼服は、「燕尾服」。「テールコート」とも呼ばれます。よく「モーニングコート」と混同されますが、こちらはジャケットの裾が燕(ツバメ)の尾のように2つに割れているのが特徴です。夜の正礼服として、格式の高い結婚式や披露宴などで着用します。ドレスコードが「ホワイトタイ」とある時は、この燕尾服を着用します。

夜の準礼服は、イギリスでは「ディナージャケット」、アメリカでは「タキシード」と呼ばれています。最近は昼間の着用も見られます。日本では結婚式の新郎が着るフロックコート風のジャケットを「タキシード」と呼んだりしますが、これは日本独自の呼び方です。ドレスコードが「ブラックタイ」とある時に、着用します。

ドレスコードが無い場合は、昼夜関係無く、略礼服の「ラウンジスーツ」や「ブラックスーツ」、濃紺やグレーの「ダークスーツ」でOK。
ただし、正式な礼服のブラックスーツは普段ビジネスなどで着る黒いスーツとは、黒色の深さや生地の質が違います。また、ジャケットのポケットは、蓋のついているものは礼服には向きません。蓋には雨水を防ぐ意味があり、元々アウトドア用のジャケットに付いていたものだからです。つまり、黒いジャケットならば何でも良いかというと、そうではないということです。

黒い礼服といえば「喪服」がありますが、従来は喪服にも「正喪服」「準喪服」「略喪服」といった格式がありました。喪主や遺族として参列する場合、男性であれば正喪服であるモーニングコートや紋付羽織袴、女性は黒紋付など着物を着ることがマナーでした。しかし昨今はどんどん略式化され、男性の場合はブラックスーツを着用することが一般的なようです。

こうした各ジャケットにズボン、ベスト、ドレスシャツ、タイ、カフスや靴など、それぞれの礼装に合わせた組み合わせがあります。それらを覚えるのも、揃えるのもなかなか大変です。そういった意味でも、あまり着用機会の少ない礼服は、一式レンタルで済ます人が増えているようです。

ドレスコードまではいかないまでも、こういった礼服の着用時のマナーは多少面倒ですが、それさえ守っておけば円滑な人間関係が保てる便利な習慣でもあります。また、着ている衣服による生活環境の差が出にくいため、参加者を平等にします。マナーは、社会発展のための人間の「知恵」なのです。

礼服は着ただけでも、気持ちがシャンとして自然と振る舞いも整う気がします。
人生や生活の節目を、気持ち良く迎えてくださいね。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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