ファッション豆知識

ベレー(2)

さて前回、ベレーには定番の「バスク」タイプとそれよりも少し大ぶりの「ブルトン」タイプがあることをお話ししましたね。

軍隊で使用されているベレーは「ミリタリー・ベレー(アーミー・ベレー)」と呼ばれ、ブルトンタイプの少し大きめの形をしています。

ミリタリー・ベレーは、縁にパイピング(多くは革製)が施されているのが特長です。バスクタイプのような「チョボ」はありません。また、一般的に所属や階級を表すための「ベレー・バッジ」が付けられ、加えて識別のために、所属期間や部隊ごとに色を変えている場合があります。

例えば、アメリカの特殊部隊のことを「グリーン・ベレー」と呼びますよね。アメリカ陸軍では1940年代から、軍隊の中でも特殊技能者、エリートの証明としてベレーがかぶられており、特殊部隊のベレーの色が「緑」だったことから、特殊部隊自体を指す言葉になりました。ジョン・ウェイン主演の1975年の映画『グリーン・ベレー』のヒットが、この言葉を世間に広めたと言われています。

「グリーン・ベレー」はもともと第二次世界大戦中、イギリス軍の特殊部隊「ブリティッシュ・コマンドス」が制帽として採用したのが起源とされています。そこから各国に広がり、今ではアメリカをはじめとしてフランス、ベルギーやオランダ、オーストラリアやアイルランドなど多くの特殊部隊でかぶられています。

その他アメリカ軍では、レンジャー部隊はタン(淡い茶色)、空挺部隊はマルーン(えんじ色)というように、部隊ごとに色分けされていました。

2001年にアメリカ兵士の士気をあげようと、当時の参謀長により一般部隊にも黒いベレーの着用を適用しましたが、将兵たちからは「両手を使わないとかぶれない」と不評を買い、2011年からは迷彩のパトロールキャップに改められたそうです。

その他の軍隊でも、ロシアのようにベレーを採用している国は多いようです。ちなみに、ロシアも各部隊で色分けされていますが、ロシアの特殊部隊のベレーの色は「赤」だそうですよ。

日本の陸上自衛隊では、全ての部隊において略帽として「濃緑色」のベレーが用いられています。ただし、国連の平和維持活動に参加する際は例外で、所属国、組織を問わず国連色の「空色」で統一されるそうです。

また、一般用のベレーでは特に決まりはないかぶり方も、軍隊などでは被り方にルールがあります。
斜めにかぶってどちらか一方を立て、反対側を下げる、というかぶり方が多いのですが、その方向も2種類あり、大きくは向かって右側を立てるイギリス式、左側を立てるフランス式に分けられ、アメリカや日本はイギリス式、スペイン、イタリアなどはフランス式を採用しているそうです。
ただし、同じフランス軍の中でも、海軍の特殊部隊は1942年にイギリスで設立・養成された経緯から、ベレーをイギリス式に着用するのだそう。かぶり方ひとつとっても、その帰属する部隊の歴史が表されているのですね。

ミリタリー・ベレーと言えば有名なのは、あのカンガルーのロゴの「カンゴール(KANGOL)」です。

でもカンガルーの綴りは「KANGAROO」。「KANGOL」ではありません。
「KANGOL」は、創業者のジャック・スプライルゲンが、ニット(KNITTING)の「K」、アンゴラ(ANGORA)の「ANG」、ウール(WOOL)の「OL」を合わせて考案したと言われています。
では、なぜカンガルーのロゴなのでしょう?

実は1983年に他社製品との区別を明確にするために、「ロゴを作ろう」ということになりました。様々な動物のロゴも含めて検討していたところ、その頃店に買いに来るイギリス人の多くが「カンガルーの帽子をくれ」と言い間違うので、「いちいち反論するよりも、そのカンガルーをロゴにしてしまおう」ということで、カンガルーに決定したそうです。面白いですね。

創業者のジャックは1918年に帽子屋を開き、バスク・ベレーを中心にベレーをフランスから輸入していましたが、やがて自らベレーの製造・販売も行うようになります。
他社との差別化をはかり、「カンゴール」ブランドを立ち上げたのは1938年のことでした。

第二次世界大戦に入ると、イギリス軍用の帽子にカンゴールのベレーが採用されます。
特に、「英雄」といわれたモンゴメリー将軍が愛用したことで有名になりました。彼の愛称からこの形のベレーは「モンティ・ベレー」とも呼ばれています。

大戦後は一般的にもその人気が広まり、1948年のロンドン・オリンピックの開会式では、イギリスチーム全員がカンゴールのベレーを被って入場し、世界の人びとにベレーの気品ある魅力を示しました。
1950年代半ばまでにはカンゴールはベレー市場を席巻しており、ベレー以外でも多くのヒット商品を開発します。ピエール・カルダンやマリー・クワントなどの有名デザイナーとコラボ企画も生まれ、品質だけでなく高いファッション性もアピールしました。

でも、なんといっても世界的に印象付けたのは、「ビートルズ(THE BEATLES)」との協業でしょう。1964年にカンゴールはビートルズの帽子に関して全世界独占製造・販売権を取得し、その人気は音楽の世界にも広がり、世界規模で拡大しているビジネスを促進しました。

その後1980年代は、「音楽」と「ゴルフ」の領域で人気を維持し、1981年に帽子デザイナーとして有名なグラハム・スミスがカンゴールのデザインを手がけるようになると、英国航空のCAの制帽なども手がけます。先にお話したロゴマークができたのはこの頃のことです。
80年代のイギリスを代表するファッショニスタでもあったダイアナ元王妃も、愛用していたそうですよ。

ベレーの素材は主にウールフェルトやニットなどの柔らかい素材を用います。
ブリム(つば・縁)もないので、折りたたんで持ち運びしやすいのが便利ですね。

ニット素材のものは伸縮性があるので、サイズも厳密に合わせる必要がなく、また、頭にぴったり固定されるので安定感があります。その代わり多少圧迫感があるので、カチューシャなどが苦手な人は少しゆるめのものを選ぶと良いでしょう。

ゆるめに編まれたニット素材ですと、シルエットもルーズな感じになり、断然カジュアル感が増します。ラスタカラーにしたら、レゲエ・ミュージシャンのレゲエ帽にもなります。

ベレーはその素材ゆえに、シーズン的には秋冬のイメージでしたが、最近は綿や麻のニット素材やサーモ素材(機能性素材で大抵はポリエステル)、ペーパー素材など、通気性が良いものが出ており、「サマー・ベレー」と呼ばれています。シックなカラーで選べば、今のような夏から秋への端境期にはぴったりのアイテムだと思います。

特に注目のペーパー素材は、文字通り「紙」を原料にして作られた素材のことですが、軽くて丈夫で安価なことから近年、様々なアイテムに使用されています。
また、ペーパー素材は紙ですから、染色しやすく、豊富な色展開や美しい発色が可能なのも、人気の要因のひとつだと思います。
紙をそのまま使うわけではなく、糸・紐状のものをかぎ編みにしたり、ブレード状にして使用するため、強度が高くなるのです。

反対に、トーク帽のようなシルエットの型入れタイプのベレーは、品があってきちんとしたイメージです。
時には、礼装としてベレーを求められる場合もありますが、基本的には正式な礼装に使用するのは、トーク帽の方が良いでしょう。

その他、プリント生地のものや刺繍などの装飾を施した華やかなデザインなど、様々なヴァリエーションのベレーがあります。

少しハードな革素材のものは、従来のベレーの柔らかい印象を覆すかもしれませんね。

ベレーのコーディネートはその種類の豊富さだけでなく、配色のバランスも考えるのが楽しいところ。

おしゃれ初級者は、シックな装いに鮮やかな差し色でポイントにするコーディネートから始めてみましょう。今年はオールブラックなコーディネートが流行なので、差し色になるベレーは活躍しますよ。
その他、色をアウターと合わせたり、バッグや靴と合わせたり。
ベレーを含めて3色以上のコーディネートで絵画のようなバランスが取れたら、かなりおしゃれ上級者です。

とりあえず、ベレーを持っていない人も持っている人も、今年のベレーを買いに行きましょう!
店頭で真っ先に目に留まった素敵なベレーこそ、この秋のあなたのファッションをワンランクアップしてくれるでしょう。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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