ファッション豆知識

ベレー(1)

暦の上ではすっかり秋といえども、まだまだ暑い日が続きますね。
けれども、だいぶ陽の光が秋らしい色になり、空も少し透明度を増して高く見えます。

まだ暑さが残っていても、そろそろファッションは秋の装いに切り替えないと。
暑さをしのぐ綿や麻などの夏素材でも、落ち着いたシックな色にするだけでぐっと秋らしくなります。また、肌の露出を押さえ、風通しの良い軽い羽織ものを追加するのも手軽な秋仕様にする方法です。

でも頭に載ったストローハットは、9月に入ったらやめた方がよいかもしれませんね。
代わりに、秋らしいベレーにするのはいかがでしょう?

帽子は、帽子の山を指す「クラウン」と帽子の縁・つばを指す「ブリム」から成っているということは「帽子」の回で少し触れましたが、ベレーはこの「ブリム」のない「クラウン」だけの帽子です。
形状は平らな丸型で、頭にぴったり付くのが特徴。ふっくらとしたシルエットのものもありますが、「クラウン」も「山」というほどではありません。

日本では「ベレー帽」と呼ばれていますが、皆さんはこのベレーにどのようなイメージを持っているでしょうか?

レンブラントやピカソなどの画家たちにも愛用されてきたので、画家のイメージがある人もいるでしょう。または、チェ・ゲバラや軍隊のイメージでしょうか?
日本では手塚治虫氏や藤子・F・不二雄氏などの有名漫画家たちが、ベレーを自らのトレードマークとしたように、昭和時代の漫画家の間でベレーが流行した時期があったため、年配の人の中には、漫画家のイメージがある人も多いでしょう。

このようにベレーは、特定の職業に結び付いたり、個人のトレードマークとしてアイコン的に認識されることの多いファッションアイテムです。

そのアイコン的な特性ゆえ、「ベレー帽論争」が起きたこともありました。
1991年秋、新宿のゴールデン街のバーのママから衆議院議員になった長谷百合子氏が、トレードマークであるベレー帽をかぶって国会の本会議に出席しましたが、帽子が衆議院規則で禁じられていたため、賛否両論を起こしました。
長谷議員は以降ベレー帽を着用することを自粛しましたが、この話には後日余談があり、その5年前に来日した当時のイギリス皇太子妃のダイアナ妃が、帽子をかぶって国会を訪問していたことがわかったのです。
日本では室内では帽子を脱ぐのが礼儀ですが、欧米では必ずしもそうではありません。帽子のマナーについては、まだまだあいまいな部分もあり、時代によっても変化しています。(「帽子」の回参照)

ベレーBéret フランス

クラウン(crown = 帽子の山)だけで、ブリムのないもので、丸く平たく頭にぴったりつく帽子。主として毛織物でつくられ、男女ともに用いる。大きい型のベレーはバスク地方(スペインとフランスの国境)の農夫がかぶる帽子に似ているので、<バスクベレー>ともいう。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

ベレーBéret フランス

丸く平らでぴったり頭につく縁なしの帽子。中央頂上につまみがあるだけで飾りはなく、おもに柔らかい毛織物でつくられている。ベレーはバスク地方(スペインとフランスの国境地帯で、バスク人の住む地方)からきたものといわれているが、僧りょの角帽がバスク地方の農民にひろまり、さらに一般に親しまれるようになったと解することができる。一般にひろく用いられている比較的小さいベレーは、明らかにバスク地方の住民がかぶっているもので、これを<バスク・ベレー(basque beret)>とよんでいる。フランスでは学生、芸術家、旅行家、ときにはタクシーの運転手などまでが用いるほど一般化され、また世界中にまで広まるにいたった。ベレーは婦人帽にもとり入れられ、いろいろの型のものを生みだしている。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

「Béret(ベレー)」がフランス語であることからわかるように、ベレーはフランスで生まれました。

フレンチファッションというと、ボーダーTシャツにベレーを思い浮かべる人も多いでしょう。あのココ・シャネルなど、世界のファッションをリードする人たちやブリジット・バルドーなどのファッションアイコンたちが愛用したことにより、一気にその人気が広まり、いまやフレンチファッションには欠かせないアイテムとなりました。

「バスク・ベレー」が定番ですが、フランスとスペインの国境地帯にあるバスク地方は、今日のベレーの発祥の地とも言われています。
ちなみに、ベレーがトレードマークのチェ・ゲバラの父親はバスク系だったそうですよ。

バスク・ベレーは、19世紀初期にバスク地方の農民や羊飼いが日用の日・雨除けとしてかぶっていた民族衣装ともいえる帽子で、その前身は15~16世紀に主にカトリックの聖職者が用いた角帽(ビレッタ)であるとか、隣のベアルヌ地方を支配していた兵士たちがかぶっていた防寒帽が改良されたものである、など諸説あります。
のちにバスク地方を訪れたフランス最後の君主、ナポレオン3世が、この帽子を「ベレー・バスク」と呼んだことから有名になり、ヨーロッパ中に広まったそうです。

ベレーの専門ブランド「 ロレール(LAULHERE)」は、このバスク地方のオロロン・サント・マリーという街で1840年に創業され、高品質のベレーを作り続けている、今ではフランス唯一残る貴重なブランドです。その品質の良さから、王室や世界各国の軍にベレーを納めてきました。今でも熟練された職人の手でひとつひとつ手作りされているそうです。

バスク・ベレーBasque béret フランス

フランスとスペインの国境地帯の、バスク地方の農民のかぶっている帽子。クラウンが丸く平らで、頭まわりがきっちりと頭にあった型で、柔らかいウールでつくられる。バスク人のかぶるベレーは割合にゆったりとしているが、洗練された今日のフランスのベレーは、これが元になってできたものとおもわれる。

解説:「新・田中千代服飾事典」より

バスク・ベレーには、クラウンのトップに「チョボ(ポッチ)」と呼ばれる短いひも状の飾りと内側に「ビン革(スベリ)」があります。

特に「チョボ」はベレー独特の飾りとして認識されていますが、実はもともとは飾りではなく、その製造工程でできる部分でした。
布を用いないフェルト製のベレーは、羊毛の繊維束を木型の上に放射状に並べて織り、最後に束を切り離します。チョボはその時にできる「切り残し」と言ったらよいでしょうか。

今日では、このような伝統的な作り方をしていないものでも、「ベレーにはチョボ」というイメージから、「飾り」として付けられることもあります。
「飾り」ですから、時折、チョボがポンポンになっているカジュアルな可愛らしいデザインのものも見かけますが、スコットランドタイプのベレーなどは、このポンポンが特徴です。

バスク・ベレーの他に、フランス北西部ブルターニュ地方の住民ブルトン人がかぶっていたバスク・ベレーよりも大ぶりの「ブルトン・ベレー(Breton béret)」も多く知られるところです。
ベレーは大きく、定番のバスクとこの少し大きめのブルトンの2タイプに分類することができるのです。

ベレーというと「軍隊」のイメージを持つ人もいるようですが、この軍隊用の「ミリタリー・ベレー(アーミー・ベレー)」は、ブルトンタイプの一種です。

次回は、この軍隊用のベレーのお話から続けますね。お楽しみに。

文/佐藤 かやの(フリーライター)

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